知財高裁(平成8年35日)“ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体事件控訴人らは、化合物の製造方法の技術分野においては、全工程の有機的結合そのものが課題解決のための技術的思想であり、出発物質をシス体とする製造方法とトランス体とする製造方法とは当業者に別個のものとして理解されているのであって、製法の重要な構成要素である出発物質、中間体の違いや、シス体とトランス体との安定性、精製容易性や総工程数の違いを無視して、製法の一部のみを取り出して、本質的部分とするのは誤りである旨を主張する。しかし、・・・・特許発明の本質的部分は、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することにより認定されるべきであり、化合物の製造方法であるからといって、常に全工程の有機的結合のすべてが本質的部分となるものとはいえない。したがって、出発物質、中間体に、側鎖導入のための反応に影響を及ぼさないわずかな違いがあることをもって、直ちに本質的部分が異なるとはいえない。また、シス体を出発物質及び中間体とするか、トランス体を出発物質及び中間体とするかどうかで、一般的には別個の製造方法として理解されており、また、両者には、安定性、精製容易性や総工程数の違いがあるとしても、訂正発明の本質的部分とは、・・・・従来技術に開示されていなかった新規な製造方法により、ビタミンD構造又はステロイド環構造の0位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能としたという点にあり、当該新規な側鎖の導入方法は、出発物質又は中間体がシス体であるかトランス体であるかによって異なるものではなく、シス体又はトランス体の安定性、精製容易性や工程数の違いも、訂正発明の本質的部分に関わる部分ではない。訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外の作用効果の点で相違する部分があることは、訂正発明の本質的部分を共通に備えていることを否定する理由とはならない。したがって、控訴人らの主張は理由がない」と述べている。

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