知財高裁(平成8年35日)“ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体事件本件優先日当時、トランス体のビタミンD構造を、光照射によりシス体へ簡便に転換し得ることは周知技術であり、所望のビタミンD誘導体を製造するに際し、トランス体のビタミンD構造を有する化合物を出発物質として、適宜側鎖を導入した後、光照射を行うことによりトランス体をシス体へ転換して、シス体のビタミンD誘導体を得る方法は広く知られていたこと・・・・、控訴人方法の出発物質Aに相当するトランス体のビタミンD構造をマキサカルシトールの合成に用いることも知られていたこと・・・・、シス体のビタミンD構造を有する化合物を出発物質とする場合であっても、製造過程で置換基等の導入や保護基を外す際等にトランス体へと転換し、再びシス体へと転換する方法も一般的であったこと・・・・が認められる。また、一般に、化合物の反応においては、反応点付近の立体構造が反応の進行に大きく影響することが知られているところ、出発物質であるビタミンD構造の0位アルコール化合物がマキサカルシトールの側鎖の導入に際して反応する水酸基は、トランス体とシス体とで構造が異なるビタミンD構造の二重結合(5位)の位置から遠く離れており、出発物質のビタミンD構造がトランス体であってもシス体であっても、反応点付近の立体構造は同じであることからすれば、当業者であれば、トランス体とシス体の二重結合の位置の違いによって訂正発明のマキサカルシトールの側鎖の導入過程の反応が異なるものと考えないのが自然である。そうすると、控訴人方法の実施時(本件特許権の侵害時)において、訂正発明の目的物質に含まれるマキサカルシトールを製造するために、訂正発明の出発物質における『Z』として、シス体のビタミンD構造の代わりに、トランス体のビタミンD構造を用い、この出発物質Aを、訂正発明の試薬と同一の試薬Bと反応させて、トランス体である以外には訂正発明の中間体と異なるところがない中間体Cを生成すること、中間体Cの側鎖のエポキシ基を開環してマキサカルシトールの側鎖を有するトランス体である物質Dを得ること、最終的には物質Dに光照射を行いシス体へと転換し、水酸基の保護基を外して、訂正発明の目的物質と同じマキサカルシトールを製造するという控訴人方法は、当業者が訂正発明から容易に想到することができたものと認められる。したがって、控訴人方法は、均等の第3要件を充足すると認められる」と述べている。

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