知財高裁(平成28年3月31日)“ナルメフェン及びそれの類似体を使用する疾患の処置事件”は、「本願発明は、『B型肝炎により選択された、ウィルス性の感染』を『予防又は治療するための医薬』において、『ナルメフェンを含む6−メチレンモルヒナン類(式R−A−Xの化合物)の治療的な量を、それを必要とするヒト又は動物へ投与することを具備する医薬』を発明として含むものであり、同発明は、ナルメフェンを含む6−メチレンモルヒナン類(式R−A−Xの化合物)の新しい医学的な用途として、『B型肝炎より選択された、ウィルス性の感染を予防又は治療するための医薬』という用途を提供することを課題とするものである。上記課題が解決できることを当業者において認識するためには、『式R−A−Xの化合物』が、『B型肝炎より選択された、ウィルス性の感染を予防又は治療するための医薬』としての有用性を有すること、すなわちヒト又は動物の生体内におけるB型肝炎ウィルスの増殖抑制作用を有することを理解できる必要がある。しかし、本願明細書において、B型肝炎ウィルスの感染に関する記載・・・・はいずれも、本願発明が、予防又は治療すべき状態の1つとしてウィルス感染を挙げているものにすぎず、実際にB型肝炎ウィルスの感染の予防又は治療に関して有用性があることを客観的に記載しているものではない。そして、本願明細書には、他に、『式R−A−Xの化合物』が、生体内におけるB型肝炎ウィルスに対して増殖抑制作用等の医薬的に有用な作用効果を有することを技術的に裏付ける薬理試験の結果や実施例等の客観的な事実の記載は一切ない。また、本願出願時、『式R−A−Xの化合物』がそのような作用効果を有することについての技術常識が存在したことを証する証拠はなく、そのような作用効果が、当業者が出願時の技術常識に照らして認識できる範囲のものであるとも認められない。一般に本願発明のような医薬用途発明においては、一定の予防又は治療すべき状態に対して、特定の医薬を投与するという用途を記載するのみで、その作用効果について何ら客観的な裏付けとなる記載を伴わず、そのような技術常識もない場合には、当業者において、実際に有用性を有するか、すなわち、課題を解決できるかどうかを予測することは困難である。そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、式R−A−Xの化合物が、『B型肝炎より選択された、ウィルス性の感染を予防又は治療するための医薬』という医薬用途において使用できること、すなわちヒト又は動物の生体内におけるB型肝炎ウィルスの増殖抑制作用を有することを当業者が理解できるように記載されているとはいえない。したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、特許法36条6項1号の規定を満たさない」と述べている。 |