知財高裁(平成28年3月9日)“オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤事件”は、「原告は、本件発明における『オキサリプラティヌムの水溶液からなり』中の『からなる』が不明確であり、明確性要件を欠くと主張する」、「『オキサリプラティヌムの水溶液からなり』中の『からなる』との文言について、『から』という格助詞と『なる(成る)』という動詞とから成り立つもので、『から』は、直前に記載されたものが素材、材料、構成要素となることを示す語であり、『なる(成る)』は、成立する、構成するを意味する語であることは明らかである。そうすると、『Aからなる』ものは、Aを『素材・材料・構成要素』として『成立する・構成されている』ものを意味すると解される。したがって、『(A)からなる』という場合には、Aを必須の構成要素とすることは明確であるものの、それ以上に、Aのみで構成され、他の成分を含まないものか、Aのほかに他の成分を許容するか否かについて規定するものではなく、『Aのみからなる』場合をも包含する概念であると認められ、このこと自体に当事者間に実質的な争いはない。そして、例えば、含有する金属が一部異なると、特質が全く異なるものとなる一部の合金における分野等と異なり、医薬液体製剤については、pHの調整や、安定性、保存性を高めるために何らかの添加剤が含有される場合が多いことは、原告も認めるとおり、周知のことである。そうすると、明細書において、『からなる』の前に摘示された素材、構成要素以外の成分を排除することが明らかでない限り、『Aからなる』とは、Aを必須の構成要素とするものである以上に、他の成分については規定しておらず、単に『Aを含む』ものがその技術範囲に含まれると理解することになるものと解され、また、他の成分を排除するか否か規定していないからといって、『Aからなる』の語が、特段不明確な用語と理解されるものでもない。次に、本件明細書を見るに、・・・・オキサリプラティヌムを水に溶解したオキサリプラティヌム水溶液を構成要素とする製剤であることは明らかであるが、本件発明1の『オキサリプラティヌム水溶液』に他の成分を含んではならないことを示す記載はなく、他の構成要素を含有することが排除されているとまではいえない。したがって、当業者は、本件発明1は、『濃度が1ないし5mg/mlでpHが4.5ないし6のオキサリプラティヌムの水溶液』を必須の構成要素とすることだけが特定された製剤であって、該製剤に他の構成要素が含まれることが排除されてはおらず、かつ、『医薬的に許容される期間の貯蔵後、製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり、該水溶液が澄明、無色、沈殿不含有のままである、腸管外経路投与用のオキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤』に係る発明と一義的に理解することが可能であるといえる。よって、本件発明1は明確であり、同様の理由により、本件発明2〜9も明確である」と述べている。 |