知財高裁(平成8年6月1日)“破袋機事件「特許法10条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が『販売することができないとする事情』については、侵害者が立証責任を負い、かかる事情の存在が立証されたときに、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものであるが『販売することができないとする事情』は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし、例えば、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告、侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴、市場の非同一性(価格、販売形態)などの事情がこれに該当するというべきである」、「一審被告は『販売することができないとする事情』として、原告製品以外にも、第三者が製造販売する同種の破袋機が市場に存在し、その販売数量は、被告製品と同程度の年間1台か2台程度であったと推認されることを主張する。証拠・・・・によれば、一審原告及び一審被告のほかにも、破袋機を製造販売する第三者が存在すること、これら第三者のうちには、自社が販売する破袋機の特徴として、自社の商品カタログにおいて『独自の刃形状と自動反転により破袋後の袋の絡み付きを少なくしています。2軸の破袋刃により抜群の破袋効果を発揮します。シンプルな構造のためメンテナンスが容易であり、安価な破袋刃を採用しランニングコストの低減化を図っております』などと紹介する者・・・・、自社のホームページにおいて『詰まりや巻き込みを独自の工夫で防止しました。噛み込み防止ストッパー、ウェイトバランサー、正逆回転で処理困難物は選別され、巻き付きもほとんど除去されます』などと紹介する者・・・・や『2軸の回転刃により効率よく破袋を行い、従来の破袋機と比べてビニール袋のかみ込みなどが少なく、選別作業が容易です』などと紹介する者・・・・があることが認められる。しかし、本件特許発明1及び2は、・・・・@機構が簡素化されるとともに、連続して効率よく破袋することができ、A袋体のブリッジ現象の発生を防止することができ、B破袋後の袋破片が回転体、固定側刃物に絡みつくことがない等の破袋作業にとって優位な効果を奏するものであるところ、上記事実のみから、上記第三者の販売する破袋機が、本件特許発明1及び2と同様の作用効果を発揮するものであるとの事実を認めるに足りない。また、本件全証拠によるも、破袋機市場における販売シェアの状況や第三者が販売する破袋機の価格は不明である。したがって、上記認定事実をもって、一審原告において、被告製品の譲渡数量に相当する原告製品を販売することができない事情があるということはできず、他にその事情があると認めるに足りる証拠はない」、「なお、一審被告は、原告製品の価格は、被告製品の価格に比べ高額である旨主張する。証拠・・・・及び弁論の全趣旨によれば、・・・・一審原告が受注した原告製品4台のうち、最も低額なものは418万円であり、最も高額なもので950万円であって、その1台当たりの平均額は約645万円であったこと、被告製品の販売価格は、350万円程度であることが認められる。しかし、対象製品が破袋機という一般消費者ではなく事業者等の法人を需要者とする製品であり、また、その耐用期間も少なくとも数年間に及ぶものであること(弁論の全趣旨)に照らすと、上記の程度の価格差があるからといって、直ちに原告製品と被告製品の市場の同一性が失われるということはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない」、「以上のとおり、本件において、特許法102条1項ただし書に該当する事情があるということはできない」と述べている。

特許法の世界|判例集