知財高裁(平成8年62日)“トイレットロールの芯事件原告は、トイレットロールのペーパー部分に識別子の付された周知例1〜周知例3に開示された識別子を、引用発明のトイレットロールの芯部分に適用する動機付けはないと主張する。そこで、検討するに、@周知例1・・・・には、ペーパーの引き出し方向が視認できるように、ペーパーの最表部の引出し口に引出し方向に向けた符号を設けたトイレットロールが・・・・、A周知例2・・・・には、回転方向やテール端部端縁側の自由部分の位置を視認しやすくするために、狭窄部の狭部側がテール端縁側に位置されるように連続的又は断続的にエッジエンボスを配した衛生薄葉紙ロール(トイレットロール、キッチンロール等)が・・・・、B周知例3・・・・には、トイレットロールの巻方向や上下方向が判るように、ペーパーの表面に巻方向を表わす矢印や上下方向を表わす文字や印を印刷したトイレットロールが(考案の詳細な説明、それぞれ開示されている。これらによれば、トイレットロールに周方向の向きを特定する印(識別子)を設けることは、本願優先日前の周知技術であったと認められる。そうすると、左右の判別を介して上下(周方向)の判別をする引用発明において『印 M』をより直接的に周方向の向きを特定する印とするために、この周知技術を用いて『周方向のいずれか一方の向きを特定する識別子』とすることは、とりたてて創意を要することなく当業者が適宜なし得る程度のことにすぎない。原告は、上記周知技術を引用発明のトイレットロールの芯部分に適用する動機付けはないと主張する。しかしながら、印(識別子)を付す際にその目的や意味を理解しやすいようにすることは、当業者であれば常に考慮することであるところ、上記周知技術にある印(識別子)は、上下(周方向)の判別を直接的に明らかにすることができるものであるから、当業者としては、まず、トイレットロールの芯部分にある引用発明の『印M』を上記周知技術にある印(識別子)のような記号形態に変更することを試みようとするのであり、動機付けは十分にあるといえる。当業者が、上記周知技術にある印(識別子)を引用発明のペーパーの最表部に適用することを試み得るとしても、それは、引用発明の『印M』を上記記周知技術にある印(識別子)に変更することを試みることと併存し得るのであり、相違点が容易想到であるとの判断を妨げるものではない。原告の上記主張は、採用することができない。そうすると、相違点を容易想到と判断した審決の判断には、誤りはない」と述べている。

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