東京地裁(平成28年7月13日)“累進多焦点レンズ事件”は、「特許権者は、同法78条1項の規定による通常実施権者がいる場合には、その承諾を得た場合に限り、特許法134条の2第1項に基づいて訂正請求をすることができるものとされている(同法134条の2第9項、127条)。そして、原告が、外国法人を含む複数の第三者に対し、本件特許権を対象に含むライセンス契約(通常実施権設定契約)をしていること、しかし、原告は上記外国法人から、本件訂正に関し何らの承諾も得ていないことは当事者間に争いがない」、「この点に関して原告は、・・・・本件訂正は、形式的に引用関係を解消する訂正であって、通常実施権者に不測の損害を与えないから、特許法127条所定の承諾を必要とする場合に当たらない・・・・旨主張している」、「特許法127条には、通常実施権者の承諾を得る必要がない場合について特段の除外規定はない。そして、同法の趣旨は、特許権者が誤解に基づいて不必要な訂正を請求したり、瑕疵の部分のみを減縮すれば十分であるのにその範囲を超えて訂正したりすると、実施許諾を受けた範囲が不当に狭められるなど、通常実施権者等が不測の損害を被ることがあるので、訂正審判を請求する場合に上記のような利害関係を有する者の承諾を要することとしたものであると考えられる。また、通常実施権者には、訂正による権利範囲の減縮の程度にかかわらず、訂正により特許が有効に存続することとなったり、あるいは、訂正の承諾を拒否することで特許が無効になるなどすることで、何らかの利益又は損失を生じる場合もあり得るのであるから、通常実施権者は、特許権者による訂正について常に利害関係を有する可能性があると認められる。そうすると、訂正が減縮にあたる場合はもちろんのこと、訂正が単なる減縮に当たらない場合であっても、特許権者が訂正をする場合には常に通常実施権者の承諾が必要であるというべきである」、「したがって、引用関係を解消する目的でされる訂正については特許法127条の適用がない旨の原告の上記主張には理由がない」と述べている。 |