知財高裁(平成28年7月28日)“メニエール病治療薬事件”は、「用途発明とは、既知の物質について未知の性質を発見し、当該性質に基づき顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを特徴とするものであるから、用途発明における特許法2条3項にいう『実施』とは、新規な用途に使用するために既知の物質を生産、使用、譲渡等をする行為に限られると解するのが相当である。これを本件についてみるに、・・・・本件発明は、作用発現までに長時間要するという従来のメニエール病治療薬の課題を解決するために、既知の物質であるイソソルビトールの1日当たりの用量を従来の『1.05〜1.4g/kg体重』から、構成要件Aにいう『0.15〜0.75g/kg体重』という範囲に減少させることによって、血漿AVPの発生を防ぐなどして迅速な作用を発現させるとともに、長期投与に適したメニエール病治療薬を提供するというものである。そうすると、本件発明は、イソソルビトールという既知の物質について投与量を減少させると血漿AVPの発生を防ぎ、かえって内リンパ水腫減荷効果を促進させるという未知の性質を発見し、当該性質に基づきイソソルビトールの投与量を減少させることによって、即効性を有しかつ長期投与に適するメニエール病治療薬としての顕著な効果を有する新規な用途を創作したことを特徴とするものであるから、本件発明は、イソソルビトールという既知の物質につき新規な用途を創作したことを特徴とする用途発明であるものと認められる。そして、・・・・前提事実によれば、被告製品の添付文書及びインタビューフォームにおける用法用量は、1日体重当り1.5〜2.0mL/kgを標準用量とするものであって、かえって、本件明細書にいう従来のイソソルビトール製剤の用量をも超えるものであるから、構成要件Aによって規定された上記用途を明らかに超えるものと認められる。以上によれば、被告は、イソソルビトールについての上記新規な用途に使用するために、これを含む被告製品を製造販売したものということはできないから、被告製品を製造販売をする行為は、本件発明における特許法2条3項の『実施』に該当するものと認めることはできない」と述べている。 |