知財高裁(平成8年84日)“臀部拭き取り装置事件当初明細書等の記載には、・・・・便器と便座との間隙を形成する手段としては便座昇降装置が記載されているが、他の手段は、何の記載も示唆もない。すなわち、補正前発明は、便器と便座との間隙を形成する手段として、便座昇降装置のみをその技術的要素として特定するものである。そうすると、便座と便器との間に間隙を設けるための手段として便座昇降装置以外の手段を導入することは、新たな技術的事項を追加することにほかならず、しかも、上記のとおり,その手段は当初明細書等には記載されていないのであるから、本件補正は、新規事項を追加するものと認められる」、「被告は、当初明細書等に接した当業者にとって、便器と便座との間に拭き取りアームを移動させるための間隙さえ形成されていればよく、その手段が当初明細書等に例示されたもの限られないということは、自明の事項であると主張する。しかしながら、便器と便座との間の間隙を形成する手段が自明な事項というには、その手段が明細書に記載されているに等しいと認められるものでなければならず、単に、他にも手段があり得るという程度では足りない。上記のとおり、当初明細書等には、便座昇降装置以外の手段については何らの記載も示唆もないのであり、他の手段が、当業者であれば一義的に導けるほど明らかであるとする根拠も見当たらない」、「以上のとおりであるから、本件補正が、新規事項の追加にあたらないとした審決の判断には、誤りがある」と述べている。

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