知財高裁(平成28年9月29日)“ローソク事件”は、「原告らは、本件発明の『こそぎ落とし又は溶融除去することにより』との記載は、物の製造方法が記載されているプロダクト・バイ・プロセス・クレームであるから、明確性要件に適合しないなどと主張する。しかし、証拠・・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告らの上記主張は、本件の特許無効審判において無効理由として主張されたものではなく、当該審判の審理判断の対象とはされていないものと認められるから、もとより本件訴訟の審理判断の対象となるものではなく・・・・、失当というほかない。なお、この点につき付言するに、PBP最高裁判決(サイト注:平成27年6月5日判決)は、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか又はおよそ実際的でないという事情(以下『不可能・非実際的事情』という。)が存在するときに限り、当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう明確性要件に適合する旨判示するものである。このように、PBP最高裁判決が上記事情の主張立証を要するとしたのは、同判決の判旨によれば、物の発明の特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合には、製造方法の記載が物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり、特許請求の範囲等の記載を読む者において、当該発明の内容を明確に理解することができないことによると解される。そうすると、特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、当該製造方法の記載が物の構造又は特性を明確に表しているときは、当該発明の内容をもとより明確に理解することができるのであるから、このような特段の事情がある場合には不可能・非実際的事情の主張立証を要しないと解するのが相当である。これを本件についてみるに、本件発明の『該燃焼芯にワックスが被覆され、かつ該燃焼芯の・・・・先端部に被覆されたワックスを、該燃焼芯の先端部以外の部分に被覆されたワックスの被覆量に対し、ワックスの残存率が19%〜33%となるようこそぎ落とし又は溶融除去することにより前記燃焼芯を露出させる・・・・ことを特徴とするローソク』という記載は、その物の製造に関し、経時的要素の記載があるとはいえるものの、ローソクの燃焼芯の先端部の構造につき、ワックスがこそぎ落とされて又は溶融除去されてワックスの残存率が19%ないし33%となった状態であることを示すものにすぎず、仮に上記記載が物の製造方法の記載であると解したとしても、本件発明のローソクの構造又は特性を明確に表しているといえるから、このような特段の事情がある場合には、PBP最高裁判決にいう不可能・非実際的事情の主張立証を要しないというべきである。したがって、原告らの主張は、PBP最高裁判決を正解しないものであり、採用することができない」と述べている。 |