知財高裁(平成9年18日)“眼科用清涼組成物事件「特許出願に係る発明の構成が、公知技術である引用発明に他の公知技術、周知技術等を適用することによって容易に想到することができる場合であっても、上記発明の有する効果が、当該引用発明等の有する効果と比較して、当業者が技術常識に基づいて従来の技術水準を参酌した上で予測することができる範囲を超えた顕著なものであるときは、上記発明はその限度で従来の公知技術等から想到できない有利な効果を開示したといえるから、当業者は上記発明を容易に想到することができないものとして、上記発明については、特許を受けることができると解するのが相当 である。これを本件についてみると、・・・・本件発明は、ソフトコンタクトレンズ装用者に十分な清涼感を付与し、かつ、刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供するものであり、本件明細書・・・・に記載されている実施例9ないし1において、ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の清涼感は◎と評価され、かつ、ソフトコンタクトレンズ装用中の点眼直後の刺激も○又は◎と評価されている。しかしながら、本件明細書・・・・には『各パネラーには、清涼感について全く感じない場合を0点、十分に強い清涼感を感じる場合を6点として7段階評価してもらった。同様に眼刺激について全く感じない場合を6点、強い刺激を感じる場合を0点として7段階評価してもらった。パネラー全員の評価点を平均して、その平均値が0〜2点未満を×、2点以上3点未満を△、3点以上4点未満を○、4点以上6点以下を◎として表に結果を示す』と記載され、清涼感及び刺激の評価において、◎と評価された場合であっても、7段階評価における中央値付近の『4』の評価が含まれている。そうすると、上記評価から、直ちに本件発明1の奏する効果が甲1発明と比較して予測できないほど顕著であると推認することはできず、その他に、甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズ装用時に適用した場合と比較して、本件発明1が奏する効果が当業者の予測を超える顕著なものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。のみならず、・・・・甲1発明の点眼剤は、目に対する刺激性が低く、良好な清涼感を付与することができ、かつ、清涼感の持続性の高いものであり、・・・・甲1発明の点眼剤をソフトコンタクトレンズの装用者にも適用し得ると示唆されているのであるから、これらの記載に接した当業者は、甲1発明の点眼剤につき、ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するために用いた場合に、裸眼時やハードコンタクトレンズ装用時と同程度に、眼に対する刺激性が低く、良好な清涼感を付与することができ、清涼感の持続性が高いものであることを十分に予測することができる。しかも、甲1発明の点眼剤の効果と本件発明の効果は、そもそも清涼感を付与し刺激性が低いという同種のものにすぎず、本件明細書には、ハードコンタクトレンズ装用時における清涼感との比較評価等が一切記載されていないのであるから、本件優先日当時の技術常識を考慮しても、具体的にどの程度の清涼感の差異があるのかは不明である。したがって、本件発明1の有する効果が予測することができる範囲を超えた顕著なものであると認めることはできない」と述べている。

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