知財高裁(平成29年10月23日)“パンツ型使い捨ておむつ事件”は、「原告は、単なる思い付きで本件無効審判請求を行っているわけではなく、現実に本件特許発明と同じ技術分野に属する原告発明について特許出願を行い、かつ、後に出願審査の請求をも行っているところ、原告としては、将来的にライセンスや製造委託による原告発明の実施(事業化)を考えており、そのためには、あらかじめ被告の本件特許に抵触する可能性(特許権侵害の可能性)を解消しておく必要性があると考えて、本件無効審判請求を行ったというのであり、その動機や経緯について、あえて虚偽の主張や陳述を行っていることを疑わせるに足りる証拠や事情は存しない。以上によれば、原告は、製造委託等の方法により、原告発明の実施を計画しているものであって、その事業化に向けて特許出願(出願審査の請求を含む。)をしたり、試作品(サンプル)を製作したり、インターネットを通じて業者と接触をするなど計画の実現に向けた行為を行っているものであると認められるところ、原告発明の実施に当たって本件特許との抵触があり得るというのであるから、本件特許の無効を求めることについて十分な利害関係を有するものというべきである。被告は、『請求人(原告)が、本件特許発明について、実施の準備をしてい る者と評価されるためには、例えば、紙おむつを製造販売する事業(物の発明の生産、譲渡等を伴う事業)に必要となる製造設備や資金、販売ルート等を備えた企業等が、本件特許発明の実施に該当する事業の準備(事業の計画)を行うとともに、請求人が、その事業の少なくとも一部において主体的に関与していること』が必要であるとした審決の判断は相当であるから、そのような事情の認められない本件においては、利害関係の存在を肯定することはできないと主張する。しかし、上記のような要求をするということは、原告が製造委託先の企業等を求めようとしても、相手方となるべき企業等が、本件特許との抵触のおそれを理由に交渉を渋るというような場合には、直ちに本件特許の無効審判を請求することはできず、まずは、原告が自ら製造設備の導入等の準備行為を行わなければならないという帰結をもたらすことになりかねないが、このように、経済的リスクを回避するための無効審判請求を認めず、原告(審判請求人)が経済的なリスクを負担した後でなければ無効審判請求はできないとするのは不合理というべきである。また、被告は、原告発明と本件特許発明とは何ら関係がない等として、原告による原告発明の実施が本件特許に抵触することはあり得ないという趣旨の主張をする。しかし、原告発明は、主として折り畳み部を有する外層シートに関する発明であるから、それだけで紙おむつを製作することができるわけではなく、他に様々な技術を利用する必要があることは明らかであるところ、そういった、他に利用すべき技術の1つとして、本件特許が無効なのであれば、それに係る技術を利用しようとすることも考え得るところである(原告本人の陳述は、そのような趣旨であると理解できる。)。被告は、本件特許発明以外の技 術によっても代替可能であるという趣旨の主張をするものと思われるが、本件特許が無効なのであるとすれば、それにもかかわらず、原告が、本件特許発明の利用を回避しなければならない理由はないというべきであり、被告の上記主張も失当である」と述べている。 |