知財高裁(平成9年5日)“スキンケア用化粧料事件控訴人は、本件発明は、pHを5.0〜7.5の範囲とすることによって、乙4発明と比較してアスタキサンチンの安定性の大幅な向上という顕著な効果を奏するものである・・・・と主張する。そこで、控訴人の上記主張を前提に、本件発明が、乙4発明において上記相違点に係る本件発明の構成を採用した場合に予測可能な効果と比べて、顕著な効果を奏するものであるか否かについて検討するに、化粧品の基本的かつ重要な品質特性の1つとして安定性があり、化粧品の製造工程において常に問題とされるものであることは当業者に明らかであるところ、化粧品の安定化という課題に対する解決手段には様々なものがあり、pHの調整が安定化の手法として通常用いられるもの・・・・であり、当業者の技術常識であると認められる。このような技術常識に照らすと、乙4ウェブページの記載に接した当業者であれば、乙4発明において、そのpHを調整することを含めた化粧料に対する様々な安定化の手段を採用して、安定化を図ることを期待し、これを予測することができるものといい得る。また、本件明細書の記載によれば、スキンケア用化粧料である本件発明のpHを『5.0〜7.5』の範囲内とすることによる効果は、具体的には、8日間にわたる『5℃空気バブル経時』における吸光度残存率・・・・が高いということのみであると認められる。そして、pHが本件発明の技術的範囲に含まれる5.0のもの・・・・と、本件発明の技術的範囲外である4.5のもの・・・・とでは、前者が『△』と評価されているのに対し、後者が『×』と評価されているものの、本件明細書・・・・の記載によれば『△』は吸光度残存率が0%以上5%未満であることを、また『×』は吸光度残存率が0%未満であることを意味しているから、・・・・吸光度残存率に大きな差があると理解することはできない。そうすると、本件明細書の記載をみても、本件発明のpHとして、弱酸性側の下限値を5.0と設定したことが、それを下回るpHである場合と比較して臨界的意義を有するものではないから、本件発明の上記効果が顕著なものであると認めることはできない(本件発明のpHの範囲である5.0〜7.5の全範囲にわたって、本件発明が顕著な効果を奏するとまではいえない。)」、「したがって、本件発明は、乙4発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認めるのが相当である」と述べている。

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