知財高裁(平成9年)“ドキセピン誘導体を含有する局所的眼科用処方物事件引用例1には、アレルギー性結膜炎を抑制するためのKW−4679(化合物Aのシス異性体の塩酸塩)を含有する点眼剤が記載され、また、モルモットに抗原誘発及びヒスタミン誘発したアレルギー性結膜炎に対する各種抗アレルギー薬の影響を検討した結果、KW−4679の点眼は、0及び10g/μlの濃度で、抗原誘発したアレルギー性結膜炎症に有意な抑制作用を示したこと、及び抗原誘発結膜炎よりもヒスタミン誘発結膜炎に対してより強力な抑制効果を示したことが記載されている。そして、本件特許の優先日当時、ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において、ヒトのアレルギー性結膜炎に類似するモデルとしてラット、モルモットの動物結膜炎モデルが作製され、点眼効果等の薬剤の効果判定に用いられていたこと、本件特許の優先日当時販売されていたヒトにおける抗アレルギー点眼剤の添付文書・・・・には、各有効成分がラット、モルモットの動物結膜炎モデルにおいて結膜炎抑制作用を示したことや、ラットの腹腔肥満細胞等からのヒスタミン等の化学伝達物質の遊離抑制作用を示したことが記載されていたことからすると、引用例1に接した当業者は、引用例1には、KW−4679が『ヒト』の結膜肥満細胞に対してどのように作用するかについての記載はないものの、引用例1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW−4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあるものと認められる」、「そして、本件特許の優先日当時、ヒトのアレルギー性結膜炎を抑制する薬剤の研究及び開発において、当該薬剤における肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどの各種の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)に対する拮抗作用とそれらの化学伝達物質の肥満細胞からの遊離抑制作用の2つの作用を確認することが一般的に行われていたことから、当業者は引用例1記載のKW−4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みるに際し、KW−4679が上記2つの作用を有するかどうかの確認を当然に検討するものといえる」、「加えて、引用例2には、化合物0(化合物A)を含む一般式で表される化合物(T)のPCA抑制作用について、皮膚肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離の抑制作用に基づくものと考えられるとの記載がある。この記載は、ヒスタミン遊離抑制作用を確認した実験に基づく記載ではないものの、化合物(T)の薬理作用の1つとして肥満細胞からのヒスタミンなどのケミカルメディエーターの遊離抑制作用があることの仮説を述べるものであり、その仮説を検証するために、化合物Aについて肥満細胞からのヒスタミンなどの遊離抑制作用があるかどうかを確認する動機付けとなるものといえる」、「前記・・・・の事情に加えて、本件特許の優先日当時、薬剤による肥満細胞に対するヒスタミン遊離抑制作用は、肥満細胞の種又は組織が異なれば異なる場合があり、ある動物種のある組織の肥満細胞の実験結果から他の動物種の他の組織における肥満細胞の実験結果を必ずしも予測できないというのが技術常識であったことに鑑みると、引用例1に、モルモットの動物結膜炎モデルにおける実験においてKW−4679がヒスタミン遊離抑制作用を有さなかったことが記載されていることは、KW−4679がヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有するかどうかを確認する動機付けを否定する事由にはならない」、「以上によれば、引用例1及び引用例2に接した当業者は、引用例1記載のアレルギー性結膜炎を抑制するためのKW−4679を含有する点眼剤をヒトにおけるアレルギー性眼疾患の点眼剤として適用することを試みる動機付けがあり、その適用を試みる際に、KW−4679が、ヒト結膜の肥満細胞から産生・遊離されるヒスタミンなどに対する拮抗作用を有することを確認するとともに、ヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用を有することを確認する動機付けがあるというべきであるから、KW−4679についてヒト結膜の肥満細胞からのヒスタミンの遊離抑制作用(ヒト結膜肥満細胞安定化作用)を有することを確認し、ヒト結膜肥満安定化剤の用途に適用することを容易に想到することができたものと認められる。したがって、第2次訂正後の各発明における『ヒト結膜肥満細胞安定化』という発明特定事項は、引用例1及び引用例2に記載のものからは動機付けられたものとはいえないとして、引用例1を主引例とする進歩性欠如の原告主張の無効理由は理由がないとした第2次審決の判断は、誤りである」と述べている。

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