知財高裁(平成9年)“焼鈍分離剤用酸化マグネシウム事件本件各発明は、・・・・本件課題(サイト注:磁気特性及び絶縁特性、更にフォルステライト被膜生成率、被膜の外観及びその密着性並びに未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を形成でき、かつ性能が一定な酸化マグネシウム焼鈍分離剤を提供すること)を解決するための手段として、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中に含まれる微量元素の量を、Ca、P及びBの成分の量で定義し、更にa、i、P及びSのモル含有比率により定義して・・・・、本件特許の特許請求の範囲請求項1に記載された本件微量成分含有量及び本件モル比の範囲内に制御するものである。そして、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含有される上記各微量元素の量を本件微量成分含有量及び本件モル比の範囲内に制御することにより、本件課題を解決し得ることは、本件明細書記載の実施例(1〜9)及び比較例(1〜7)の実験データ・・・・により裏付けられているということができる。そうすると、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムにおいて、本件特許の特許請求の範囲請求項1に記載のとおりa、P、B、i及びSの含有量等を制御することによって本件課題を解決できると認識し得るものということができる」、「本件審決は、本件明細書の各実施例及び各比較例の試験結果によれば、第1の系統及び第2の系統の実施例におけるCAA値(サイト注:クエン酸活性度)が、CAA0%でそれぞれ110〜130秒、120〜140秒とされていることから、本件発明の課題が解決されているのは、CAA0%が上記数値の範囲内にされた場合でしかないとした上、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムにおいて、CAA値とフォルステライト被膜の性能との間に相関関係があることは周知であるから、CAA値について何ら特定のない酸化マグネシウムにおいて、本件微量成分含有量及び本件モル比のみの特定をもって直ちに本件課題を解決し得るとは認められないとする」、「本件特許の出願当時、フォルステライト被膜の性能改善という課題の解決を図るに当たり、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含有される微量元素の含有量に着目することと、CAA値に着目することとが考えられるところ、当業者にとって、いずれか一方を選択することも、両者を重畳的に選択することも可能であったと見るのが相当である」、「CAA値について何ら特定がない酸化マグネシウムにおいて、本件微量成分含有量及び本件モル比のみの特定をもってしては、直ちに本件課題を解決し得るとは認められないとした本件審決には誤りがあるというべきである」と述べている。

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