東京地裁(平成29年11月29日)“屋根材の縁切り部材事件”は、「法112条の2第1項は、法112条4項の規定により消滅したものとみなされた特許権の原特許権者は、同条1項の規定により特許料を追納することができる期間内に特許料等(特許料及び割増特許料)を納付することができなかったことについて『正当な理由』があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、その特許料等を追納することができると規定する。これは、平成23年法・・・・改正前の法112条の2第1項が、期間徒過後に特許料等を追納できる場合を、原特許権者の『責めに帰することができない理由』により追納期間内に特許料等を納付できなかった場合と規定していたところ、国際調和の観点から、当時我が国は未加入ではあったが、特許法条約の規定にならい、柔軟な救済を可能とすることを目的としたものと解される。具体的には、特許法条約が、手続期間を徒過した場合の救済を認める要件として、『Due Care(いわゆる『相当な注意』)を払っていた』又は『Unintentional(いわゆる『故意ではない』)であった』のいずれかを選択することを認めていたところ、平成23年法・・・・改正においては、救済に要する手数料を従前どおり無料とすることを前提に、第三者の監視負担に配慮しつつ実効的な救済を確保できる要件として前者、すなわち『Due Care(いわゆる『相当な注意』)を払っていた』を採用し、条文の文言としては、特許料等を納付することができなかったことについて『正当な理由があるとき』と規定したものである。そうすると、法112条の2第1項にいう『正当な理由があるとき』とは、原特許権者(その手続を代理する者を含む。)において、特許料等の追納期間の徒過を回避するために一般に求められる相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的な事情によりこれを回避できなかったときをいうものと解するのが相当である」、「原告は、本件特許事務所に特許料の納付期限の管理を委ねていた」、「本件特許事務所は、本件納付期間内である平成26年6月10日頃、原告及び同人が代表者を務める会社が有する特許権、実用新案権、商標権及び特許出願を一覧とした表を作成したことが認められ、同一覧表には本件特許権の情報が掲載されていないから、同日頃、本件特許事務所において、本件特許権の情報を把握できていなかったものと認められる。しかるところ、特許料の納付期限を管理する特許事務所としては、特許料等の納付期限徒過により特許権が消滅することを回避するため、顧客の保有する特許権に係る特許料等の納付期限を適切に管理すべきところ、本件特許事務所はこれを怠り、本件特許権の情報を把握しないまま原告に『特許権継続料金納付のお知らせ』と題する書面を送付しなかったものである。更に、・・・・本件特許事務所は、本件納付期間中の平成26年6月10日頃、原告及び同人が代表者を務める会社が保有する特許権等の一覧表を作成しており、この作成に際して特許情報プラットフォームを参照することなどによって、容易に本件特許権の存在を覚知することができたといえるから、このような確認を怠り、本件特許権の存在を把握できなかった本件特許事務所において、本件期間徒過を回避するために一般に求められる相当な注意を尽くしていたということはできない。原告は、本件特許事務所の管理データから本件特許権に関するデータが欠落することは、原告にとっては予期できないことであったと主張するが、特許事務所に依頼して特許料等の納付期限を管理する場合であっても、特許権者が特許料等の納付期限の徒過を回避すべき注意義務を免れるものではない。特許事務所において人的過誤により顧客の保有する特許権を把握できないことは、起こり得ることである上、原告は、本件特許権に係る発明の発明者であり、第1年分ないし第3年分の特許料を納付しているのであるから、仮に本件特許権に係る書類等を紛失したとしても、特許情報プラットフォームを参照することなどにより、本件特許権の存在を覚知することができたといえ、やはり本件期間徒過を回避するために一般に求められる相当な注意を尽くしていたということはできない」、「以上のとおり、本件期間徒過については、特許権者であった原告及びその手続を代理する者である本件特許事務所のいずれについても、本件期間徒過を回避するために一般に求められる相当な注意を尽くしていたとは認められないから、法112条の2第1項にいう『正当な理由』があるものということはできない」と述べている。 |