東京地裁(平成29年12月25日)“2−ベンゾイルシクロヘキサン−1、3−ジオン事件”は、「証拠・・・・及び弁論の全趣旨によれば、@本件各発明は、新規な、除草剤の有効成分又はその候補となる化合物を提供することを課題として、化合物の一般式及び置換基の組合せを示したものであるものの、発明の詳細な説明においても、発明の技術的範囲に含まれる各化合物の除草特性に関する個別の実験結果が示されていないから、本件各発明の技術的範囲に含まれる化合物の中から、除草特性及び水稲に対する安全性に優れたテフリルトリオンを見出し、農薬混合物として実用化するには相応の試行錯誤を要すると考えられること、A被告製品2は、いずれもテフリルトリオンに加えてもう一種類の有効成分・・・・を含有する農薬混合物であること、Bテフリルトリオンが幅広い雑草に対する除草効果に優れ、スルホニルウレア抵抗性雑草(ホタルイ類、アゼナ類、コナギ等)に高い除草作用を有しているのに対して、被告製品2に含有されるもう一種類の有効成分はいずれもテフリルトリオンの除草効果が十分でないノビエに対して優れた除草効果を有しており、テフリルトリオンと相互に除草効果を補完する関係にあるということができること、C被告が作成した被告製品2の技術資料やパンフレット等の広告・宣伝上も、二種類の有効成分が含まれた農薬混合物であることによってスルホニルウレア抵抗性雑草及びノビエに対して優れた除草効果を発揮することが一貫して記載されていること(原告が主張するように、テフリルトリオンの優れた除草効果等に係る記載があることをもって、テフリルトリオンだけを強調しているとはいえない。)、D平成19年に日本で特許出願を行った国内企業・団体のうち、合計出願件数の上位となっている企業・団体に加えて、株式会社帝国データバンク保有データ信用調査報告書ファイルの中からライセンス契約を実施していると判断された企業に対するアンケート調査において、化学分野に係る特許権のロイヤルティ率の平均値は4.3%であるとされていること、他方で、財団法人経済産業調査会発行の『ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜』・・・・において、上記のアンケート結果をその技術分類と異なる技術分類で新たに分析した結果として、『有機化学、農薬』分野のロイヤルティ率の平均値は5.9%とされていることが認められる。上記事実関係に照らすと、被告製品2は、本件各発明の技術的範囲に含まれるテフリルトリオンを有効成分の一つとする農薬混合物ではあるものの、本件各発明の効果が特に顕著であるとみることはできない。また、被告製品2においては、テフリルトリオン以外の有効成分もテフリルトリオンの除草効果を補完する重要な効果を有しており、技術資料等においても二種類の有効成分が含まれた農薬混合物であることが一貫して記載されていることも実施料率を算定するに当たって十分に考慮される必要がある。加えて、本件各発明についての特許に・・・・無効理由があること(当サイト注:訂正の再抗弁によって解消することが認められる)からすると、被告が原告との間でライセンス契約を締結することなく被告製品2を製造販売等して本件特許権を侵害してきたことをもって、実施料率をそれ程高額なものと認定するのは相当とはいえない。以上を総合すると、本件における特許法102条3項所定の損害の額は、被告製品2の売上高に●(省略)●を乗じて算定するのが相当である」と述べている。 |