知財高裁(平成9年34日)“建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材事件本件審決は、通気胴縁部について、本件発明と先願発明との間の相違点1として、本件発明においては、略台形山状であって、上方に向かって斜めに拡開した逆台形型の凹溝条をなし、該凹溝条の各隅部には、溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべくプレスストレスを分散できるようプレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散して形成されてなり、上面の幅が底面の幅よりおよそ1.3倍以上である逆台形とされて、重ね合わせ時に作業性を損なわないように形成されたのに対し、先願発明においては、凹溝条であること以外は具体的に特定されていないと認定した」、「原告らは、溝条リブの亀裂や引きちぎれの工学的概念及びその対処法は、先願明細書等に係る出願当時、当業者に周知されており・・・、溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止するためにプレスストレスベクトルを多数の角度に分散するというRの技術的意義は、周知事実であったことから、先願明細書等には、溝条リブの亀裂や引きちぎれを防止すべく、プレス成形時にRをつけてプレスストレスベクトルを多数の角度に分散することが実質的に記載されている旨主張する。しかし、原告らが上記周知事実の根拠として掲げる文献には、『板材を曲げ加工する際には、板の圧延方向に生じている繊維組織に直角の方向に折り曲げるように板取りする。繊維方向と平行に折り曲げると割れやすい。・・・・・・『曲線曲ゲ板材を曲線にそって曲げる加工法である。・・・曲げられてフランジとなる部分に曲ゲの曲線にそった引張りまたは圧縮応力が起きる。前者は材料破断、後者はシワ発生の原因となる。・・・・・・といった、プレス加工ないしプレス成形一般の説明が記載されているにすぎず、特に溝条リブに言及する記載はなく、亀裂や引きちぎれを防止するためにプレスストレスベクトルを多数の角度に分散することも記載されていない。よって、証拠上、原告ら主張の周知事実を認めるに足りない」、「本件審決は、相違点2として、・・・・建物のモルタル塗り外壁通気層形成部材の敷設に関し、本件発明においては、連続敷設時には、通気胴縁部同士及びリブ同士が重ね合わせられ、逆台形型凹溝条をなす通気胴縁部の形状及び断面形状が略凹溝条をなす溝条リブの形状が重ね合わせ敷設の目印形状となるよう形成されるのに対し、先願発明においては、複合ラスの張設作業は、隙間を生じさせないように隣接する複合ラス相互間の継ぎ足し処理を順次に繰り返して行うものの、通気胴縁部(突条部0a)及びリブ(横力骨2)の形状が重ね合わせ敷設の目印形状となるよう形成されているか否か不明であると認定した」、「原告らは、複合ラスの張設作業においては、隣接する複合ラス相互間の継ぎ足し処理(重ね合わせ)に当たって隙間が生じないように注意深く位置合わせして施工することは、技術常識であり、これは、先願明細書等の図8からも明らかといえ、その際、通気胴縁部(突条部0a)及びリブ(横力骨2)の形状は、 確実に目視できる目立つもので、他に格別の目印も見当たらないことから、通気胴縁部及びリブの形状を目印としてこれらを重ね合わせながら敷設作業を進めることも、自明のことである旨主張する」、「しかし、先願明細書等においては、複合ラスの張設作業の際に隣接する複合ラスを重ね合わせる旨の記載はなく図8・・・・において、複合ラスを重ね合わせているか否かは不明である」、「さらに、複合ラスを重ね合わせる際、何を目印とするかは重ね合わせの方法等によっても異なるものと考えられ、必然的に通気胴縁部ないし溝条リブの形状を目印とするとまではいうことができない」、「以上のとおり、相違点1及び2に係る本件発明の構成は、先願明細書等に記載されているということはできず、したがって、本件発明は、先願明細書等に記載された発明ではない」と述べている。

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