知財高裁(平成9年34日)“接合金具事件引用発明及び甲2発明は、共に、建築の際に用いられる羽子板ボルトに関するものであるから、その技術分野を共通にし、横架材等を相互に緊結するという機能も共通している。しかし、引用発明に回動不能構成を採用することには、引用発明の技術的意義を損なうという阻害事由がある。引用発明は、・・・・従来の羽子板ボルトが有する、ボルト穴の位置がずれた場合に羽子板ボルトを適切に使用することができないという課題を解決するために、ボルト1が摺動自在に係合する係合条孔2を有する補強係合部bを、軸ボルト4を中心として回動可能にするという手段を採用して、補強係合具bが軸ボルト4を中心に回動し得る横架材6面上の扇形面積部分9内のいずれの部分にボルト穴171が明けられても、補強係合具bの係合条孔2にボルト1を挿入することができるようにしたものである。引用発明に相違点2に係る構成を採用し、引用発明の補強係合具bを、軸ボルト4を中心として回動可能なものから回動不能なものに変更すると、補強係合具bの係合条孔2にボルト1を挿入することができるのは、ボルト穴171が係合条孔2に沿った位置に明けられた場合に限定される。すなわち、引用発明は、横架材6面上の扇形面積部分9内のいずれの部分にボルト穴171が明けられても、補強係合具bの係合条孔2にボルト1を挿入することができるところに技術的意義があるにもかかわらず、回動不能構成を備えるようにすると、係合条孔2に沿った位置以外の横架材6面上の扇形面積部分9内に明けられたボルト穴171にはボルト1を挿入することができなくなり、上記技術的意義が大きく損なわれることとなる。そして、引用発明の技術的意義を損なってまで、引用発明の補強係合具bを回動不能なものに変更し、係合条孔2に沿った位置にボルト穴171を明けない限りボルト1を挿入することができないようにするべき理由は、本件の証拠上、認めることができない。そうすると、引用発明の補強係合具bを回動不能なものに変更することには、阻害要因があるというべきである。したがって、引用発明が相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることであるということはできない」と述べている。

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