知財高裁(平成9年3月7日)“混合栄養単細胞藻類の培養方法事件我が国では、外国語特許出願の出願人は、従前、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出しなかった場合には救済されなかったところ、平成3年改正法は、明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて『正当な理由』があるときは、一定の期間内に限り、これを救済するために新設されたものである。これは、PLTにおいて手続期間の経過によって出願又は特許に関する権利の喪失を引き起こした場合の『権利の回復』に関する規定が設けられ、加盟国に対して救済を認める要件として『Due Care(相当な注意)又は『Unintentional(故意ではない)のいずれかを選択することを認めており(PLT2条、同規定に沿った諸外国の立法例として、例えば、欧州においてはDue Care(相当な注意)基準を採用し、相当な注意を払っていたにもかかわらず期間の不遵守が生じた場合に救済が認められる運用がされていることなどを踏まえ、当時、我が国はPLTに未加盟であったものの、国際的調和の観点から、外国語特許出願の出願人について、期限の徒過があった場合でも、柔軟な救済を図ることにしたものと解される。もっとも、法184条の4第4項所定の『正当な理由』の意義を解するに当たっては、@特許協力条約に基づく国際出願の制度は、国内書面提出期間以内に翻訳文を提出することによって、我が国において、当該外国語特許出願が国際出願日にされた特許出願とみなされるというものであるから、同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願人には、自己責任の下で、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することが求められること、A国内書面提出期間経過後も、当該外国語特許出願が取り下げられたものとみなされたか否かについて、第三者に監視負担を負わせることを考慮する必要がある。そうすると、法184条の4第4項所定の『正当な理由』があるときとは、特段の事情のない限り、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。以下同じ)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうものと解するのが相当である」、「本件出願の処理において、移行期限を看過するという補助者による人的ミスが生じ得ることは当然に想定されるところ、管理者などが、移行期限の再確認作業を行ったとの事実も、現地事務所において移行期限の再確認作業を行う体制が構築されていたとの事実も認められない。よって、現地事務所が、本件出願の処理に当たり、移行期限を徒過しないよう相当な注意を尽くしていたということはできない」、「本件において、補助者であるA氏のみが、締切リスト及びWIPOの期限表を用いて移行期限の確認作業を行った場合、人的ミスが生じ得ることは当然に想定されるものである。したがって、本件事務所において指示書作成のための実質的な期間が短く、平成5年3月2日は悪天候の影響から欠勤者がおり、B氏が多忙であって、さらに同人が妊娠しており体調が優れなかったことから、移行期限の再確認作業が行われなかったとしても、これをもって、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて特段の事情があったということはできない」、「よって、本件において、控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったことについて、法184条の4第4項所定の『正当な理由』があるということはできない」と述べている。

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