知財高裁(平成9年6月8日)“トマト含有飲料事件本件発明は、特性値を表す3つの技術的な変数により示される範囲(サイト注:糖度が9.4〜0.0、糖酸比が9.0〜0.0、グルタミン酸等含有量が0.6〜0.2重量%)をもって特定した物を構成要件とするものであり、いわゆるパラメータ発明に関するものであるところ、このような発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その変数が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該変数が示す範囲内であれば、所望の効果・・・・(サイト注:濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制された新規なトマト含有飲料)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である」、「一般に、飲食品の風味には、甘味、酸味以外に、塩味、苦味、うま味、辛味、渋味、こく、香り等、様々な要素が関与し、粘性(粘度)などの物理的な感覚も風味に影響を及ぼすといえる・・・・から、飲食品の風味は、飲食品中における上記要素に影響を及ぼす様々な成分及び飲食品の物性によって左右されることが本件出願日当時の技術常識であるといえる。また、トマト含有飲料中には、様々な成分が含有されていることも本件出願日当時の技術常識であるといえる・・・・から、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された風味の評価試験で測定された成分及び物性以外の成分及び物性も、本件発明のトマト含有飲料の風味に影響を及ぼすと当業者は考えるのが通常ということができる。したがって『甘み』、『酸味』及び『濃厚』という風味の評価試験をするに当たり、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量を変化させて、これら3つの要素の数値範囲と風味との関連を測定するに当たっては、少なくとも、@『甘み』、『酸味』及び『濃厚』の風味に見るべき影響を与えるのが、これら3つの要素のみである場合や、影響を与える要素はあるが、その条件をそろえる必要がない場合には、そのことを技術的に説明した上で上記3要素を変化させて風味評価試験をするか、A『甘み』、『酸味』及び『濃厚』の風味に見るべき影響を与える要素は上記3つ以外にも存在し、その条件をそろえる必要がないとはいえない場合には、当該他の要素を一定にした上で上記3要素の含有量を変化させて風味評価試験をするという方法がとられるべきである」、「本件明細書の発明の詳細な説明には、糖度及び糖酸比を規定することにより、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みを有しつつも、トマトの酸味が抑制されたものになるが、この効果が奏される作用機構の詳細は未だ明らかではなく、グルタミン酸等含有量を規定することにより、トマト含有飲料の旨味(コク)を過度に損なうことなくトマトの酸味が抑制されて、トマト本来の甘味がより一層際立つ傾向となることが記載されているものの『甘み』、『酸味』及び『濃厚』の風味に見るべき影響を与えるのが、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量のみであることは記載されていない。また、実施例に対して、比較例及び参考例が、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量以外の成分や物性の条件をそろえたものとして記載されておらず、それらの各種成分や各種物性が『甘み』、『酸味』及び『濃厚』の風味に見るべき影響を与えるものではないことや、影響を与えるがその条件をそろえる必要がないことが記載されているわけでもない。そうすると、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたとの風味を得るために、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量の範囲を特定すれば足り、他の成分及び物性の特定は要しないことを、当業者が理解できるとはいえず、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された風味評価試験の結果から、直ちに、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量について規定される範囲と、得られる効果というべき、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたという風味との関係の技術的な意味を、当業者が理解できるとはいえない」、「したがって、本件出願日当時の技術常識を考慮しても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、糖度、糖酸比及びグルタミン酸等含有量が本件発明の数値範囲にあることにより、濃厚な味わいでフルーツトマトのような甘みがありかつトマトの酸味が抑制されたという風味が得られることが裏付けられていることを当業者が理解できるとはいえないから、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1、8及び1の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない」と述べている。

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