知財高裁(平成29年9月21日)“精白米または無洗米の製造装置事件”は、「記載事項A〜Iについての検討を総合すると、本件発明1の無洗米の製造装置は、少なくとも、摩擦式精米機(記載事項F)と無洗米機(記載事項C)をその構成の一部とするものであり、その摩擦式精米機は、全精白構成の終末寄りから少なくとも3分の2以上の工程に用いられているものである(記載事項E)上、精白除糠網筒(記載事項F)と精白ロール(記載事項G)をその構成の一部とするものであり、その精白除糠網筒の内面は、ほぼ滑面状であって(記載事項F)、精白ロールの回転数は毎分900回以上の高速回転とするものである(記載事項 G)と認められる。したがって、上記の無洗米の製造装置の構造又は特性は、記載事項A〜Iから理解することができる。しかしながら、請求項1の無洗米の製造装置の特定は、上記の装置の構造又は特性にとどまるものではなく、精米機により、亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ、米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し、白度37前後に仕上がるように搗精し(記載事項B)、白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり、旨味成分と栄養成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D、I)である。このうち、亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ、米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し、白度37前後に仕上がるように搗精する(記載事項B)ことについては、本件明細書の発明の詳細な説明において、本件発明に係る無洗米の製造装置のミニチュア機で、白度37前後の各白度に搗精した精米を、洗米するか、公知の無洗米機によって通常の無洗化処理を行い、炊飯器によって炊飯し、その黄色度を黄色度計で計り、黄色度11〜18の内の好みの供試米の白度に合わせて搗精を終わらせる時を調整して、本格搗精をすることにより行うこと・・・・、このようにして仕上がった精白米は、亜糊粉細胞層が米粒表面をほとんど覆っていて、かつ、全米粒のうち、表面が除去された胚芽と胚盤が残った米粒の合計数が、少なくとも50%以上を占めていること・・・・が記載され ており、結局のところ、ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより、本格搗精を終わらせる時を調整することにより実現されるものであることが記載されている。したがって、本件明細書には、本件発明1の無洗米の製造装置につき、その特定の構造又は特性のみによって、玄米を前記のような精白米に精米することができることは記載されておらず、その運転条件を調整することにより、そのような精米ができるものとされている。そして、その運転条件は、本件明細書において、毎分900回以上の高速回転で精白ロールを回転させること以外の特定はなく、実際に上記のような精米ができる精白ロールの回転数や、精米機に供給される玄米の供給速度、精米機の運転時間などの運転条件の特定はなく、本件出願時の技術常識からして、これが明らかであると認めることもできない」、「本件発明1は、無洗米の製造装置の発明であるが、このような物の発明にあっては、特許請求の範囲において、当該物の構造又は特性を明記して、直接物を特定することが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日・・・・判決・・・・参照)、上記のとおり、本件発明1は、物の構造又は特性から当該物を特定することができず、本件明細書の記載や技術常識を考慮しても、当該物を特定することができないから、特許を受けようとする発明が明確であるということはできない」、「被告は、発明特定事項として、作用、機能、性質、特性、方法、用途その他の様々な表現方式を用いることができるので、仮に特許請求の範囲に精米方法の製造方法、装置の使用方法や無洗米化方法の記載があるからといって当然に発明特定事項の記載が不明確になるものではない旨主張する。確かに、発明特定事項として、様々な表現方式を用いることは許容されるが、特許法36条6項2号の明確性要件を欠く場合、特許を受けることはできないとされることに変わりはない。そして、請求項1・・・・の記載が、いずれも明確性要件を欠くことは、前記認定のとおりであるから、被告の上記主張は、前記認定を左右するものではない」と述べている。 |