東京地裁(平成0年)“インターネットインタラクティブシステム事件特許法112条の2第1項は、同法112条4項の規定により消滅したものとみなされた特許権の原特許権者は、同条1項の規定により特許料を追納することができる期間内に特許料及び割増特許料を納付することができなかったことについて『正当な理由』があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、特許料等を追納することができると規定する。そして、特許法112条の2の上記文言が、特許法条約(Patent Law Treaty)において手続期間を徒過した場合に救済を認める要件としての『Due Care(いわゆる『相当な注意』)』を取り入れて規定されたこと・・・・からすれば、同条の『正当な理由』があるときとは、原特許権者として、特許料等の追納期間の徒過を回避するために相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的な事情によりこれを回避することができなかったときをいうものと解するのが相当である」、「原告は『正当の理由』として、・・・・本件追納期間中は別件訴訟の対応で心身ともに余裕がなかったこと、同期間中にうつ病等の複数の疾患を抱えており、特許料等を納付できる状態ではなかったことを主張する。しかしながら、一般的に自己を当事者とする訴訟を追行していたとしても、それ以外の事務を行うことができなくなるものではなく、特許料の納付期限等について注意を払うことは十分に可能であったといえるから、原告の主張する別件訴訟に係る事情は、追納期間の徒過を回避することができなかったと認められる客観的な事情とは評価できない。また、原告は、本件追納期間中にうつ病等の複数の疾患に罹患していたと主張し、原告について診断日を平成2年3月5日として『遷延性抑うつ反応』との診断を受けたことが認められる・・・・。しかし、本件追納期間(平成5年6月2日から同年2月1日まで)中に原告が精神科に通院するなどしてうつ病の治療を受けていたことを認めるに足りる証拠はないほか、原告は、@上記診断において『遷延性抑うつ反応』に罹患したとされる平成0年1月0日(本件交通事故による受傷日)以降も複数の特許出願を行なっていたことがうかがわれること・・・・、A本件追納期間中もほぼ毎週整形外科に通院していたこと・・・・、B本件追納期間経過後から間もない平成6年4月に本件特許権が消失していることを知ると、同月7日頃には特許庁に対して特許料追納手続を問い合わせる電子メールを送信し、同月3日には、特許庁から送付された電子メールの記載に従った追納分の特許料相当額の印紙を貼付した本件納付書を提出し、正当な理由に該当する旨を記載した回復理由書を提出したこと・・・・などからすれば、原告が本件追納期間中に『遷延性抑うつ反応』あるいは他の疾患により行動等の制限を受けることがあったしても、それが特許料納付の妨げになる程度のものであったと認めるには足りず、原告の疾病に係る事情もまた、追納期間の徒過を回避することができなかったと認められる客観的な事情とは評価できない。更に、原告は、特許庁から特許料納付に係る請求書の送付がなかったとも主張するが、特許料及びその納付期限については特許法107条以下に定められるなどしていて、相当な注意を尽くして情報を収集すれば容易に知ることができたというべきであるから、上記事情は追納期間の徒過を回避することができなかったと認められる客観的な事情とはいえない。その他、追納期間の徒過を回避することができなかったと認められる客観的な事情は認められない」、「以上によれば、本件納付書による特許料等の納付のうち、第4年分の特許料等に係る部分について、本件期間徒過につき正当な理由があるとはいえないとし、第5年分の特許料に係る部分について、第4年分の特許料等の追納が認められないために本件特許権は消滅しているとして、本件納付書による納付手続を却下した本件却下処分には、特許法112条の2第1項の解釈適用を誤った違法があるとはいえない」と述べている。

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