大阪地裁(平成30年11月29日)“美容器事件”は、「原告は、本件特許1及び2の設定登録後は、特許法103条により過失が推定されると主張するところ、被告は、設定登録から特許公報発行までの期間に過失の推定は及ばない旨を主張する。そこで検討するに、特許法66条1項により、特許権の設定登録がなされれば、特許公報の発行を待つまでもなく、特許権者は業として特許発明を実施する権利を専有し(特許法68条)、これに抵触する行為は特許権侵害として違法とされる。そして、特許公報発行後は、特許の内容が公示されこれを容易に知り得る状態となり、特段の過失規定がなくても、特許権を侵害する行為は過失によるものと認められるから、特許法103条が、特許権者の権利行使を容易とすることを目的として過失の推定を定めた以上、上記特許権侵害として違法とされる行為については過失が推定されると解するのが相当であり、特許公報の発行がなければ過失の推定が及ばない、あるいは特許公報不発行の事実をもって過失の推定が覆滅されると解することは、特許法103条の趣旨を没却するものというべきである。そうすると、特許法103条の推定を覆すには特段の事情が必要と解され、被告は、特許公報不発行の事実のみを主張するところ、本件においては、原告と被告が、平成27年2月26日に提起された別件訴訟において、被告製品の販売中止について協議したこと(争いがない)、原告は、本件特許1及び2について特許査定を受けた日の後である同年8月5日、被告に対し、本件特許1及び2に係る手続補正書(同月14日に登録された請求の範囲と同一の内容)をFAXにより送付したこと・・・・が認められるのであるから、過失の推定を覆すべき理由は存しないといわざるを得ず、被告の主張は採用できない」と述べている。 |