東京地裁(平成30年11月9日)“マグネット歯車事件”は、「原告各メータの製造時期に関し、原告各メータの目盛板には『L9910号21』と印字され、これらの樹脂製の蓋には『29.2』と記載されたシールが貼付されているとの事実については、当事者間に争いがない。上記目盛板については、『L9910』が型式承認番号を意味し、『21』が型式商品表示を付した年の表示を意味するものであると認められ(計量法84条1項及び2項。・・・・)、これによれば、原告各メータは平成21年に製造されたものと認めることができる。また、上記シールについては、検定の有効期限が平成29年2月であることを示す基準適合証印シールであり、水道メータの検定の有効期間は8年間であること・・・・によれば、原告各メータが検定を受けた時期は平成21年2月であると認められる。以上によれば、原告が東京都水道局に対して原告各メータを販売したのは本件特許出願前の平成21年頃であったと認めるのが相当である」、「原告マグネット歯車(当サイト注:原告各メータから取り出された)が、本件発明の構成要件A、B、C、D及びFを具備し、さらに、構成要件Eのうち、『前記マグネット部材が貫通孔を有し、前記軸部の他端側に前記貫通孔を挿通させると共に、前記貫通孔から突出した前記カシメ用突起の突出部を前記マグネット部材の挿通側から熱カシメして、』との構成を具備していることについては、当事者間に争いがない。そして、構成要件Eの『前記軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保して保持された、』との構成に関し、・・・・事実実験(平成29年8月3日)時点における原告マグネット歯車の軸線方向の移動量(間隙)は、原告メータ1について0.08mm、原告メータ2について0.11mmであったと認められるところ、原告は、この間隙は約8年程度にわたる使用による経年劣化により生じた可能性が極めて高く、原告各メータの製造時においては上記間隙は存在しなかったと主張する」、「原告は、約8年程度にわたる使用により経年劣化が生じたことを示す証拠として、原告通水実験を行い、その結果を証拠・・・・として提出する」、「しかし、同実験において、『できる限り間隙がないように製作した実験用マグネット歯車5個』(無1〜無5)は、0.022mm〜0.114mmの間隙を有しており、このうち3個・・・・は、本件明細書・・・・において好ましいとされる間隙の範囲(0.05mm〜0.5mm)に含まれている。同実験は、軸部の回転軸方向の間隙がないマグネット歯車の経年劣化の程度を測定するためのものであるから、全て間隙のある実験用マグネット歯車を使用した同実験は、その前提を満たしていないものであり、その測定結果は、軸部の回転軸方向の間隙がないマグネット歯車の経年劣化による摩耗の程度を正確に示すものということはできない」、「また、そもそも、熱カシメ機の熱カシメホーンを下降させて、熱カシメ用の突起を上から潰した後、熱カシメホーンを反転上昇させると、熱カシメの突起が応力によって若干戻ることから、軸部の回転軸線方向の間隙が生じると考えられる・・・・。原告通水実験において、できる限り間隙がないように無1〜無5が製作されたにもかかわらず、前記のとおりの間隙が生じているということは、原告の熱カシメ機による熱カシメの際に軸部の回転軸線方向の間隙が生じることは不可避であることを示すものということができる。この点、原告は、原告各メータが製作された平成21年当時においては、当時の原告の熱カシメ機により軸部の回転軸線方向の間隙が生じないようにすることは可能であったと主張するが、現時点においても軸部の回転軸線方向の間隙がない実験用マグネット歯車を製作することが困難なことを考慮すると、平成21年当時も同様に軸部の回転軸線方向の間隙が生じることは不可避であったと推認される」、「原告マグネット歯車は、平成21年時点において、マグネット歯車における軸部の回転軸方向に移動可能に間隙を有していたと認めることができるから、構成要件Eの構成も具備するものというべきである」、「したがって、本件発明は出願前に日本国内において公然実施され又は公然知られたものであるから(特許法29条1項1号、2号)、本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものである」と述べている。 |