知財高裁(平成0年日)控訴人は、特許法184条の4第4項所定の『正当な理由』に関する原判決の解釈適用が誤っていると主張し、その理由として、原判決の判示は、・・・・Aメールの誤送信があったという事実のみをもって『正当な理由』がなかったと断じるに等しい、BPCTにおける国際的なハーモナイゼーションの要請に反する、などと主張する」、「上記Aについて、控訴人は、本件代表アドレスと本件プライベートアドレスの2つのメールアドレスを認識していたが、そのうちの1つは連絡の際に使用してはならないものであったというのであるから、控訴人としては、そもそもそのようなアドレスが使われないよう配慮すべきであったし、仮に何らかの事情から上記アドレスも使用可能にしておく必要があったのであれば、本件控訴人補助者に対し、宛先として正しいメールアドレスを選択するよう、適切に管理、監督する必要があったにもかかわらず、そのような管理、監督をしていたとは認められないこと等の事情に照らしてみれば、控訴人は、本件の誤送信防止について、相当な注意を尽くしていたとはいい難い。原判決も、このような観点から『正当な理由』があったとはいえないと結論付けているのであって、メールの誤送信があったという事実のみをもって『正当な理由』がなかったと即断している訳ではない。したがって、控訴人が主張する上記Aの点も理由がない。さらに、上記Bの点、すなわち、PCTにおける国際的なハーモナイゼーションの要請に反するとの控訴人の主張に関しても、@PLT2条は、飽くまで『Due Care(相当な注意)又は『Unintentional(故意ではない)のいずれかを選択することを認めているのみであって、各要件について特に基準を設けてはおらず、その解釈及び適用については、各締結国に委ねられているものと解されるところ、A平成3年改正法で新設された特許法184条の4第4項は、国際調和の観点のみならず、ユーザーの利便性や第三者の監視負担にも配慮しつつ『Due Care(相当な注意)を採用したものと解されること・・・・からすれば、特許法184条の4第4項所定の『正当な理由』について、欧州特許庁などと全く同一の基準を採用しなければならないとする理由はない。したがって、原判決が、これらの立法に関する経緯や制度趣旨を踏まえて、同項における『正当な理由があるとき』を『特段の事情のない限り、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったとき』をいうものと解したのは、正当である。そして、控訴人が上記の意味での相当な注意を尽くしたとはいい難いことは、既に説示したとおりなのであるから、結局、控訴人が主張する上記Bの点も理由がない」と述べている。

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