東京地裁(平成30年12月27日)“磁気記録媒体事件”は、「本件発明は、記録電流値の裕度(記録電流設定マージン)及び充分な再生出力を得るための最適記録電流を考慮しながら磁気記録媒体の特性を規定する(電磁変換特性が良好な磁気記録媒体を提供すること)という課題を解決するため、本件発明の構成、特に式(1)の関係を満たすようにしたことによって、良好なオーバーカレント特性が得られ、記録電流値の裕度を確保し、また、式(2)の関係を満たすようにしたことによって、記録電流値を大きくすることなく、充分な再生出力を得ることができ、実用上消費電力を低減化できるという効果を奏するものである点に技術的意義があると認められる」、「式(1)には上限値は定められておらず、下限値である230以上の数値の全てにわたり式(1)を満たすことになるにもかかわらず、本件明細書記載の実施例において課題を解決できることが裏付けられるHc×(1+0.5×SFD)の範囲は、230.1〜245.8(又は247.5)に限られることになる。そして、本件明細書にはこの範囲よりも大きい数値の磁気録媒体の記録電流値の裕度を大きくすることができることに関する記載はない。これらによれば、式(1)には、Hc×(1+0.5×SFD)の値の上限値がないところ、実施例で示されているのは前記の範囲であって、その値が実施例で示されたものよりも大きくなった場合などを含めた、式(1)の関係が満たされることとなる場合において、当業者が、前記の課題を解決できると認識できたとはいえないとするのが相当である」、「したがって、当業者は、本件明細書の記載から、式(1)によって記録電流値の裕度を確保するという課題を解決できると認識できるとはいえず、また、本件出願当時の技術常識から、上記課題を解決できると認識できるともいえない」、「以上によれば、本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、本件明細書の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえないから、本件発明にはいわゆるサポート要件違反がある」と述べている。 |