知財高裁(平成0年2)“ユーザ認証方法事件「控訴人は、仮に本件特許1の優先日前に本件訂正発明1の公然実施が認められるとしても、NTTコムと控訴人との間には、パスワードの登録方法に関し秘密保持契約が存在していたのであり、当該実施はかかる秘密保持契約に反してなされたものであるから、本件訂正発明1は、控訴人の意に反して特許法9条1項2号に該当するに至ったものであるなどと主張する。しかしながら、そもそも、NTTコムと控訴人との間に控訴人主張の秘密保持契約が存在していたことを認めるに足る的確な証拠はない。すなわち、控訴人は、NTTコムと控訴人との間では、・・・・口頭で秘密保持契約が成立しており、その後、・・・・物品売買契約書・・・・において同秘密保持契約を書面化したなどと主張するが、かかる口頭契約の成立を裏付ける具体的な証拠は皆無であるし、そもそも企業間で、対象や範囲を具体的に特定しないまま、口頭の秘密保持契約を締結するということ自体不自然である」、また、上記物品売買契約書には『第7条(機密の保全)1.甲は契約プログラム等のすべてについて乙の書面による事前の承諾がない限り、如何なる形においてもその内容を第三者に対して公開もしくは開示してはならないものとし、且つ漏洩を防止するものとする。』(判決注:甲はNTTコム、乙は控訴人を指す)との条項があるが、・・・・飽くまでソフトウェアに関する売買契約(実態はライセンス契約)であることからすると、前記条項の『契約プログラム等のすべて』とは、・・・・プログラムのソースコードのことと解するのが合理的である。そして、ユーザが操作を行うための画面や操作方法は、ユーザがプログラムを使用するに当たり、プログラムを解析することなく把握できるものであるから、前記条項は、プログラムのソースコードの秘密保持義務を定めたものであって、ユーザが操作を行うための画面の表示や操作方法についてまでNTTコムに秘密保持義務を負わせたものではないと解するのが相当である。そうすると、上記物品売買契約書は控訴人主張の秘密保持契約が存在していたことの裏付けとなるものではなく、ほかにNTTコムと控訴人との間にかかる秘密保持契約が存在していたことを認めるに足る証拠はない。以上によれば、NTTコムは、本件サービスの実施に当たり、携帯電話の画面の表示や端末操作方法について、控訴人に対し秘密保持義務を負っていたとは認められず、控訴人の意に反して特許法9条1項2号に該当するに至った旨の控訴人の主張は、その前提を欠くものであって、・・・・採用できないというべきである」と述べている。

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