知財高裁(平成30年2月27日)“空気極材料事件”は、「審判請求人が、請求書の補正が要旨を変更するものではない旨争っている場合において、審判合議体において当該補正が要旨を変更するものであることを前提として、これを許可することができないと判断するときは、審判合議体は、同条1項に基づき、当該補正を許可しない旨の判断を示すのが相当である。それにもかかわらず、審判長が、同条1項に基づく不許可の判断を示さず、同条2項に基づき、裁量的判断として補正の不許可決定をする場合には、審判請求人は、同条4項の規定により、審判手続において、当該決定に対しては不服を申し立てることができず、審決取消訴訟においても、上記決定が裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものでない限り、上記決定を争うことができなくなるものと解される。このような結果は、審判請求人に対し、要旨の変更の可否を争う機会を実質的に失わせることになり、手続保障の観点から是認することができない」、「これを本件についてみると、証拠・・・・及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成27年12月24日付け上申書及び平成28年2月25日付け審判事件弁駁書を提出したこと、原告は、これらの書面において、請求の理由を補正して、結晶方位差が所定角以内の結晶子どうしの配置状況を制御できなければ、同一結晶方位領域の平均円相当径を目標値に制御することは不可能であり、また、同一結晶方位領域を解析する際に、粉末充填密度をどのような値に設定するのかが何ら記載されていないため、本件明細書における発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足するものではないと主張したこと、原告は、審判手続においても、当該補正は、無効理由1における間接事実をいうものであり、要旨を変更するものではないと主張したものの、審判長は、平成28年5月20日付けで、格別理由を付することなく、上記補正については許可しない旨の決定をしたこと、審決は、上記主張について、平成28年5月20日付け補正許否の決定により、無効理由に追加することは許可しないとの決定を行ったから、本件の審理範囲内の主張ではないと判断したこと・・・・、原告は、本件訴訟においても、上記決定の違法を主張するに当たり、上記補正が要旨を変更するものではないことを一貫して主張していること、以上の事実が認められる。上記認定事実によれば、原告は、審判手続において、上記補正が要旨を変更するものではない旨争っていたにもかかわらず、審判長は、当該補正が要旨を変更するものであることを前提として、特許法131条の2第1項ではなく、同条2項に基づき、格別理由を付することなく、上記補正を許可することができないと決定したものと認められる。そうすると、審決には、同条についての法令の解釈適用を誤った結果、要旨変更の存否についての審理不尽の違法があるといわざるを得ない」と述べている。 |