知財高裁(平成30年3月28日)“登記識別情報保護シール事件”は、「登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け、剥離することを繰り返すと、粘着剤層が多数積層して、登記識別情報を読み取りにくくなるという登記識別情報保護シールにおける本件課題は、登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け、剥離することを繰り返すと必然的に生じるものであって、登記識別情報保護シールの需要者には当然に認識されていたと考えられる・・・・。現に、本件原出願日の5年以上前である平成21年9月30日には、登記識別情報保護シールの需要者である司法書士に認識されていたものと認められる・・・・。そして、登記識別情報保護シールの製造・販売業者は、需要者の要求に応じた製品を開発しようとするから、本件課題は、本件原出願日前に、当業者において周知の課題であったといえる。そうすると、本件課題に直面した登記識別情報保護シールの技術分野における当業者は、粘着剤層の下の文字(登記識別情報)が見えにくくならないようにするために、粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがないように工夫するものと認められる。甲3発明は、秘密情報に対応する部分には実質的に粘着剤が設けられていないものであり、甲3発明と甲1発明は、秘密情報保護シールであるという技術分野が共通し、一度剥がすと再度貼ることはできないようにして、秘密情報の漏洩があったことを感知するという点でも共通する。したがって、甲1発明に甲3発明を適用する動機付けがあるといえる。甲1発明に甲3発明を適用すると、粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがなくなり、本件課題が解決される。したがって、甲1発明において、甲3発明を適用し、相違点に係る構成とすることは、当業者が容易に想到するものと認められる」、「被告は、甲3発明には、シールを何度も貼り付け、剥離することを繰り返すという課題は存在せず、その使用目的から容器又はシールを使い回すことは倫理上許されないから本件課題とは矛盾し、阻害要因がある、と主張する。しかし、甲3発明のシールは何度も貼り付け、剥離することを予定されていないとしても、一度剥がした後に新たなシールを貼付することは可能である。また、甲3発明が、医療、保健衛生分野において使用される検体用容器等に使用される場合には、何度も貼り付け、剥離することはないのは、検体用容器等の用途がそのようなものであるからであって、甲3発明自体の作用、機能に基づくものではなく、甲3発明は保健、衛生分野に限って使用されるものではないから、甲1発明と組み合わせるのに阻害要因があるとはいえない。したがって、被告の主張には、理由がない」、「被告は、本件課題は、登記識別情報保護シールにおける特殊な課題であって、一度剥がしただけでその目的を達成するシールの情報の確認困難という課題とは異なるから、一般的なシールの製造・販売業者が容易に認識できるものではない、と主張する。しかし、本件発明1及び甲1発明は、いずれも登記情報保護シールであり、当業者として想定されるべきであるのは、登記情報保護シールの製造・販売業者であるところ、前記・・・・のとおり、登記情報保護シールの製造・販売業者は、利用者である司法書士が認識し公表していた課題を認識していたといえる。したがって、被告の主張には、理由がない」と述べている。 |