東京地裁(平成0年3)“第\因子/第\a因子の抗体事件「本件特許請求の範囲の請求項1(本件発明1に係る特許請求の範囲)の記載は『第\因子または第\a因子に対する抗体または抗体誘導体であって、凝血促進活性を増大させる、抗体または抗体誘導体・・・・』であり、請求項4(本件発明4に係る特許請求の範囲)は請求項1を引用している。ここで『凝血促進活性を増大させる』との記載の意義については、本件明細書においてこれを定義した記載はない上『血液凝固障害の処置のための調製物を提供する』・・・・という本件各発明の目的そのものであり、かつ、本件各発明における抗体又は抗体誘導体の機能又は作用を表現しているのみであって、本件各発明の目的又は効果を達成するために必要な具体的構成を明らかにしているものではない。特許権に基づく独占権は、新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから、このように特許請求の範囲の記載が機能的、抽象的な表現にとどまっている場合に、当該機能ないし作用効果を果たし得る構成全てを、その技術的範囲に含まれると解することは、明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含ましめて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが、そのような解釈は、発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。したがって、特許請求の範囲が上記のように抽象的、機能的な表現で記載されている場合においては、その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず、上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し、そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。ただし、このことは、特許発明の技術的範囲を具体的な実施例に限定するものではなく、明細書及び図面の記載から当業者が実施し得る構成であれば、その技術的範囲に含まれるものと解すべきである」と述べている。

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