知財高裁(平成0年3)“発光装置事件審決は、本件発明の『前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が、前記コーティング樹脂の表面側から前記LEDチップ側に向かって高くなっている』との本件構成について明確であると判断したのに対し、原告は、本件構成について、数値などにより客観的に定まっているものではなく、蛍光体の濃度がコーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かってどの程度高くなっているのかが明らかではないことなどから、明確であるとはいえない旨主張する」、「『向かって高くなっている』とは『前記コーティング樹脂中の前記ガーネット系蛍光体の濃度が』、『前記コーティング樹脂の表面側』と比較して『前記LEDチップ側に向かって』、『高くなっている』ことを示していることは明らかであり、通常、そのように理解されるものといえるから、比較の程度が数値などにより明らかではないことをもって、本件発明の特許請求の範囲の記載が直ちに明確性の要件を満たさないとはいえない。そして、本件明細書の・・・・記載によれば、本件構成は、外部環境からの水分による影響を蛍光体が受けにくくすることにより水分による蛍光体の劣化を防止するという技術的意義を有するものであり、その結果、発光ダイオードを長時間使用した場合でも、色ずれ及び輝度低下が極めて少ないという効果を奏するものであると認められる。また、本件明細書には、・・・・『蛍光体の分布は、蛍光体を含有する部材、形成温度、粘度や蛍光体の形状、粒度分布などを調整することによって種々の分布を実現することができ、発光ダイオードの使用条件などを考慮して分布状態が設定される・・・・との記載があり、この記載に接した当業者であれば、本件構成については、上記の技術的意義を有することを踏まえて、本件発明の課題を解決することができる範囲内において、適宜、蛍光体の濃度の偏りの程度を設定し得るものと理解することができる。そうすると、本件構成について、更に数値などにより限定して具体的に特定していないからといって、本件発明が有する上記技術的意義との関係において、構成が不明確となるものではないといえる。さらに、本件原出願日当時、コーティング樹脂中のガーネット系蛍光体の濃度分布を確認し又は測定することができたものと考えられるから、当業者であれば、特定の発光ダイオードを想定した場合に、それが本件構成に係るガーネット系蛍光体の濃度分布(蛍光体の濃度がコーティング樹脂の表面側からLEDチップ側に向かって高くなっている傾向を示していること)を充足するものか否かを理解することは可能であるといえる(また、その結果として、上記効果を奏するものか否かを確認することも可能であるといえ、このことは、蛍光体の濃度分布の相違によって水分による劣化の程度が異なることが示された実験結果・・・・とも整合するものである。)。以上によれば、本件構成は明確であるということができ、第三者に不測の不利益を及ぼすことはないといえるから、本件構成は明確性の要件を満たすものと認められる」と述べている。

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