東京地裁(平成0年4)“アルミニウム缶内にワインをパッケージングする方法事件ワインをパッケージングしたアルミニウム容器に対して負の影響を及ぼす成分は他に複数あるものと認められ『遊離S』、『塩化物』及び『スルフェート』の濃度を特定すれば、他の成分の濃度いかんにかかわらず本件発明の効果を実現できるという技術常識が存在したと認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件発明に係る方法を使用するためには、本件明細書に『遊離S』、『塩化物』及び『スルフェート』の濃度に加えて、本件発明に係る『ワイン』に含まれ、効果に影響を及ぼし得るその他の成分の濃度等についても具体的に記載されていないと、当業者はどのような組成のワインが本件発明に係る効果を奏するかを確認することが困難であるが、本件明細書に記載された『試験』で使用されたワインの組成は『遊離S』、『塩化物』及び『スルフェート』の濃度すら明らかではなく、他の成分の種類や濃度も何ら開示されていない」、「また、耐食コーティングに用いる樹脂等の成分の違いにより、缶内の飲料に与える影響に大きな差がある・・・・ところ、本件明細書には耐食コーティングの具体例として『エポキシ樹脂』が挙げられているのみで、他の種類のコーティングにおいても同様の効果を奏すると当業者が理解し得る記載は存在しない。また、そのような技術常識が本件特許の出願時に存在したと認めるに足りる証拠はない。 また、本件明細書に記載された『試験』で用いられた耐食コーティングの種類は明らかではなく、どのようなコーティングがワインの組成成分とあいまって本件発明に係る効果を奏するかを具体的に示す試験結果は存在しない。そうすると、当業者は、本件発明を実施するに当たって用いるべき耐食コーティングについても過度の試行錯誤することを要するというべきである」、「本件発明の効果に影響を及ぼし得る耐食コーティングの種類やワインの組成成分について、本件明細書の発明の詳細な説明には十分な開示がされているとはいい難いことに照らすと、本件明細書の発明の詳細の記載は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできず、特許法6条4項1号に違反するというべきである」と述べている。

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