東京地裁(平成0年5日)原告は、法184条の4第3項及び法184条の5第2項が、パリ条約2条及びTRIPS協定3条に定める内国民待遇の原則に違反すると主張する。特許協力条約に基づく国際特許出願(法184条の3)の出願人は、国内書面を国内書面提出期間内に提出しなければならず、法は、国内書面を提出期間内に提出しなかったときは、相当の期間を指定して、補正命令を行う旨規定している(法184条の5第2項1号。国際特許出願のうち、外国語でされた外国語特許出願について、出願人は、国内書面提出期間又は翻訳文提出特例期間内に明細書等翻訳文を提出しなければならず、法は、その提出がなかったときは、当該国際特許出願は取り下げたものとみなされる旨規定している(法184条の4第1項、3項。法184条の5第2項は、国際特許出願について、国内書面を国内書面提出期間内に提出しないときに補正を命じることができる旨を定めているのであって、ここに国籍又は言語による取扱いの差異は存在しない。また、国際特許出願のうち、外国語特許出願については、内国民であっても外国語特許出願を行えば、当然に明細書等翻訳文の提出が必要となるのであり、他方、外国国民であっても日本語で国際特許出願を行えば、明細書等翻訳文の提出は不要であり、特許法184条の4第3項において国籍による取扱いの差異はない。したがって、法184条の4第3項及び法184条の5第2項の規定が内国民待遇の原則に違反するとはいえない」、「これに対し、原告は、過去の出願状況に照らして日本語特許出願を日本国民以外の外国国民が行うことは実質的に皆無であり、明細書等翻訳文の提出期間を徒過した外国国民の出願人には補正命令を受ける機会が与えられず、他方、国内書面の提出期間を徒過した内国民の出願人には補正命令を受ける機会が与えられることになることなどから、これは形式的には言語による取扱いの差異ではあるが、実質的には内外人不平等を生じさせており、特許法の上記各規定は、内国民待遇の原則に反すると主張する。しかしながら、明細書等翻訳文の提出が必要とされる理由と国内書面の提出が必要とされる理由は異なり、明細書等翻訳文提出手続と国内書面提出手続は別個に行うことができる異なる趣旨の別個の手続である。外国語特許出願の出願人も、期間内に明細書等翻訳文を提出したが、別個の趣旨に基づく別個の手続に関する国内書面を提出しなかった場合には、補正命令を受ける機会がある。明細書等翻訳文の提出期間を徒過した外国語特許出願の出願人に対する取扱いと、国内書面の提出期間を徒過した国際特許出願の出願人に対する取扱いが異なったとしても、そのことが問題となるものではなく、上記出願人間の取扱いが異なることが問題であることを前提とする原告の主張は採用することができない。したがって、法184条の4第3項及び法184条の5第2項の規定が内国民待遇の原則に反するとはいえない」と述べている。

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