東京地裁(平成30年5月24日)は、「法184条の4第4項は、平成23年改正法による改正により新設された規定である。PLTにおいて手続期間の経過によって出願又は特許に関する権利の喪失を引き起こした場合の『権利の回復』に関する規定が設けられ、加盟国に対して救済を認める要件として『Due care』(相当な注意)又は『Unintentional』(故意ではない)のいずれかを選択することを認めているところ(PLT12条)、同項新設当時、我が国はPLTに未加盟であったものの、国際的調和の観点から、外国語特許出願の出願人に対し、期間の徒過があった場合でも柔軟な救済を図ることとし、上記のうち『Due care』(相当な注意)基準を採用して、同項を新設したものと解される。そして、法184条の4第4項所定の『正当な理由』の意義を解するに当たっては、特許協力条約に基づく外国語特許出願は、国内書面提出期間に明細書等翻訳文を提出することによって、我が国において、国際出願日にされた特許出願とみなされるというものであって、同制度を利用しようとする外国語特許出願の出願人には、自ら国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することが求められていることや、国内書面提出期間経過後の当該外国語特許出願が取り下げられたものとみなされたか否かについての第三者の監視負担を考慮する必要がある。これらを考慮すると、法184条の4第4項の『正当な理由』があるときとは、特段の事情のない限り、国際特許出願を行う出願人(代理人を含む。)として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをいうと解するのが相当である」、「本件においては、・・・・原告が原告補佐人(サイト注:特許管理人)に対して業務指示を出す場合、原則として電子メールを用い、原告の担当者が、送信先のメールアドレスを選択して、メールを送信していた。電子メールで連絡を行う場合、送付先のメールアドレスを打ち間違うことがあることを想定することができるほか、メールアドレスとしては実在するが宛先として正しいメールアドレスとは異なるメールアドレスを送付先のメールアドレスとして選択することがあることも当然に想定することができる。そして、実在のメールアドレスに送信した場合には、当該メールについての不達通知が送信されることはないから、送信者が不達通知によって誤送信に気付くことはできない。原告は、原告が原告補佐人の事務所に対して業務指示の連絡を行う場合は、本件代表アドレスに電子メールを送信することになっていたにもかかわらず、本件原告補助者が本件プライベートアドレスに本件メールを送信したことが誤送信であると主張する。そうすると、原告においては、原告補佐人に関係する二つのメールアドレスを認識し、本件では、連絡の際に使用してはならないメールアドレスを使用したこととなる。上記のとおり、電子メールの送信に当たり、宛先として正しいメールアドレスとは異なるメールアドレスを送付先のメールアドレスとして選択することがあることも当然に想定することができるところ、原告において、上記二つのメールアドレスを認識し、そのうちの一つは連絡の際に使用してはならないものであったにもかかわらず、本件原告補助者に対し宛先として正しいメールアドレスを選択するよう、適切に管理、監督していたことを認めるに足りる証拠はない。また、明細書等翻訳文の不提出は期間の経過により出願の取下擬制となるという重大な効果が発生するところ、上記のとおり、実在のメールアドレスに送信した場合には、当該メールについての不達通知が送信されることはなく、送信者が不達通知によって誤送信に気付くことができないにもかかわらず、上記のような管理等の態勢であった原告において、原告補佐人に対して電子メールの受信の有無の確認等をしたとは認められず、その確認等をしなかったことを正当化する状況があったことを認めるに足りる証拠はないし、また、原告として受信の有等を確認等するための態勢があったことを認めるに足りる証拠もない。原告の主張中には、当時、本件原告補助者と原告補佐人との間で別の案件の電子メールのやり取りがあり、当該別の案件についての受信確認メールによって、当該別の案件だけでなく、本件メールに係る依頼についても受任されたと思い込んだと主張する部分もあるが、本件メールの受信の確認がされていない以上、同事実は、本件メー ルの受信の確認に代わるものとはいえないし、その確認等をしなかったことを正当化する理由ともならない。以上によれば、原告は、国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することについて相当な注意を尽くしていたとはいえないと解するのが相当である」と述べている。 |