東京地裁(平成30年5月29日)“情報処理装置事件”は、「使用者が特許を受ける権利を承継して特許が登録された場合に、使用者が発明の実施等によって利益を受けたことによって相当の対価を算定する場合には、・・・・発明がされるについての使用者の貢献度のほか、実施品の売上げを得たことに対する使用者の貢献度等の諸事情を総合的に考慮して、相当の対価を算定することが相当というべきである」、「本件実施発明の内容及び意義によれば、本件実施発明は、被告入社前からコンピュータ等について知見を有していた原告が、その知見を活用し努力及び創意工夫をすることにより着想した面がある。もっとも、被告においては昭和60年代から無線ICタグの開発がされて、A発明(サイト注:被告の従業者であるAによる発明)がされ、その後もAが率いる無線ICタグの研究チームで研究が続けられていて、原告も同チームに属していた。上記の着想の背景には、原告が、被告による費用負担の下で、被告入社後にOSやコンピュータの開発を行って知識経験を獲得し、また、被告における無線ICタグの開発チームに所属して、その開発チームによる技術的蓄積に触れていたことがあったともいえる。そして、被告として製品を納入することを検討していた案件において、発注者から細かな仕様が要求されたところ、本件実施発明は、それらの要求に応じる製品の開発の過程において着想され、具体化されたという面もある。その後、被告製品が鉄道事業者等に多数納入されることとなるが、製品化に当たっては、新たに各種の開発が必要であったのであり、被告においては、相当数の被告の従業員がその開発を行った。また、継続的なシステムにも関わり得るという被告製品の性質上、被告製品の導入に当たっては一般的に発注者がその供給等についての継続性や大量の製品の供給可能性等を重視する場合も多いといえるが、その際には企業としての被告の実績、規模等が影響したことが推認できる。その他、被告とJR東日本等との契約に基づく共同開発その他の過程を経て、被告製品が開発されて被告製品が多数納入される環境が構築され、また、FN社やビットワレット株式会社の設立及びその後の事業の運用により電子マネーその他の鉄道の改札以外の用途が確立し、カードの利便性が高められて被告製品の販売数が向上したということができる。被告においては、相当額の投資を行い、こうした需要や顧客の要望に応え得る被告製品の生産体制の確立も行われた。加えて、FeliCaのシステムは、暗号方式の変更等の改良が継続的に加えられるなど、被告が継続的に技術的な改良等を行い、被告製品の売上げが維持されている面もある。これらのことは、発明者以外の被告の従業員等の関与があって初めて実現し得ることである」、「被告の貢献度に関し、原告は、開発チームの一員として又はFeliCa事業部長として上記発注者や担当者らとの交渉や被告製品の活用方法の提案等を行っていたこと、被告が原告の提案を受け入れなかったために本来得られる利益を得られなかったことなどを主張する。しかし、職務発明の発明者の行動のうち、営業面、販売面における行動は、発明者しか行うことができない行動であれば格別、基本的には発明者もその一員である従業員としての貢献として考慮されるものといえる。その他、原告は、A発明が被告製品において実施されていない上に特許の無効理由を有するなどとも主張するが、少なくとも上記に述べた理由により、本件実施発明がされるまでの間における被告の研究等の活動は、使用者の貢献として考慮されるといえる。なお、証拠・・・・によれば、原告は、平成11年に41歳で統括部長に、平成13年に事業部長に、平成14年にFeliCa開発・技術部門の部門長に就任し、平成15年4月から平成17年7月の退職時まで情報技術研究所の統括部長の地位にあり、また、上記各就任時の原告の年齢は上記各地位の平均年齢よりも若く、特に部門長に就任した際は5歳以上若かったと認められ、従業員等としての貢献に対しても相応の待遇を受け、給与及び退職金についても高い処遇を受けていたといえる」、「以上の事情その他本件に現れた全事情を総合考慮すると、本件実施発明の実施に係る相当の対価の算定に当たっての被告の貢献度は大きなものであり、その割合は95%と認めるのが相当である」と述べている。 |