知財高裁(平成30年7月5日)“フォトレジストストリッピングと残渣除去のための組成物事件”は、「本件明細書に接した当業者は、塩基の濃度及びpHと、基板からのポリマー、エッチング・アッシング残渣の除去作用、及び回路材料である金属の腐食作用との間に関係性があるとの技術常識を考慮して、pHを調整することにより、ポリマー、エッチング・アッシング残渣の除去と金属で形成された回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることの両立が可能であることを一応理解できるとはいえるものの、反面、本件明細書の発明の詳細な説明においては、当該調整の出発点となるべき具体的組成物の実際のpHの値が一切明らかにされていない上、基板からのポリマー、エッチング・アッシング残渣の除去作用と回路材料である金属の腐食作用との関係において、どの程度のpHの調整が必要であるのかについての具体的な情報が余りにも不足しているといわざるを得ない。そのため、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件訂正発明に係る組成物を生産しようとする場合、具体的に使用するレジストや回路材料等を念頭に置いて、基板からのポリマー、エッチング・アッシング残渣の除去と回路の損傷量を許容し得る範囲に抑えることとが両立した適切な組成物を得るためには、的確な手掛かりもないまま、試行錯誤によって各成分の配合量を探索せざるを得ないところ、このような試行錯誤は過度の負担を強いるものというべきである。したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、訂正後発明1〜7の組成物を生産でき、かつ、使用することができるように具体的に記載されているものとはいえない」、「原告は、原告が実施した追試実験において、pHが7付近の本件訂正発明に係る組成物及び有機アンモニウムとしてTMAHを含む本件訂正発明の組成物も所期の効果を奏するものであることが示されており、本件特許は実施可能要件に適合すると主張する。しかし、実施可能要件適合性は、出願時の技術常識を前提として、発明の詳細な説明の記載に基づいて判断すべきであって、出願後に提出された証拠によって要件適合性の立証をすることはできないというべきである」と述べている。 |