知財高裁(平成30年8月30日)“穀物粒由来のグルテンタンパク質の解毒方法事件”は、「特許法48条の3第5項所定の『正当な理由』があるときとは、特段の事情のない限り、特許出願を行う出願人として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、出願審査請求期間の徒過に至ったときをいうものと解するのが相当である」、「これを本件についてみるに、原告は、従来から、本件現地事務所が、本件国内事務所に対し出願審査の請求手続を指示するメールを送信後、メールの到達を確認する手順を踏まない運用をしていたこと、他方で、本件国内事務所は、元々、国内移行の段階で審査請求を行う日にちの指示がない場合には、出願審査請求期間満了の1か月前までに指示するよう本件現地事務所に依頼しており、逐一その旨は連絡しておらず、同期間満了の1か月前までに指示がない場合には審査請求を行わないものとみなす運用をしていたこと、そして、かかる運用でも特段の問題は生じていなかったところ、本件では、本件現地事務所が本件国内事務所に対し、平成28年4月1日、本件特許出願について出願審査請求をするようメールで指示したにもかかわらず、本件国内事務所の所内のサーバー及びメールサーバーが同年3月28日から同年4月4日までの間、ウイルス感染により使用不可能な状況となっていたため、本件国内事務所において上記メールを受信することができなかったこと等をるる主張する。しかしながら、原告の主張する運用には、本件現地事務所と本件国内事務所との間のメールの送受信に問題が生じた場合に対する何らの対策も含まれておらず、この運用に沿って行動したからといって、本件現地事務所あるいは本件国内事務所が相当な注意を払ったとは認めがたい。また、原告は、突発的な事象として、本件国内事務所の所内サーバー及びメールサーバーのウイルス感染を主張するものと解されるところ、・・・・本件国内事務所の関連会社内のサーバーに関してランサムウェアの感染に係る問題が認識されていたことは認められるとしても、原告の主張する期間において、本件国内事務所の所内のサーバーなどが使用不可能な状況になっていたと認める足りる的確な証拠はない。そして、仮に原告の主張するとおりの状況があったとしても、本件国内事務所が本件特許出願に係る出願審査請求期間(本件期間)の終期につき、平成28年4月29日と認識していたのであれば、その1か月前である平成28年3月29日の時点でサーバーが使用不可能な状態になっていたことになる以上、本件国内事務所としては、通常の運用がどうであれ、本件現地事務所に出願審査請求の指示のメールを送信した事実の有無を確認すべきであるし、サーバーが使用可能になった時点から本件期間の終期まで1か月弱の期間があったことからすれば、かかる確認をする時間的猶予は十分にあったというべきである。そうすると、結局、本件において、本件現地事務所あるいは本件国内事務所が相当な注意を払ったとは、到底認めがたいし、特段の事情があったとも認められない。なお、原告は、自らの判断に基づき、本件現地事務所あるいは本件国内事務所に委任して特許出願に係る手続を行わせることとした以上、原告が相当な注意を払ったか否かという点において本件現地事務所あるいは本件国内事務所についての前記の判断と別個の判断をすべき理由はない。したがって、本件特許出願について本件期間内に出願審査の請求をすることができなかったことについて、特許法48条の3第5項所定の『正当な理由』があったとは認められず、その結果、本件手続については本件特許出願の取下擬制(特許法48条の3第4項)により客体が存在しないこととなるから、本件却下処分は適法である」と述べている。 |