知財高裁(平成0年9)“スロットマシン事件特許法0条本文は、拒絶査定をしようとするときは、出願人に対し拒絶理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならないと規定し、拒絶理由を通知した場合には、同法7条の2第1項1号又は3号により出願人には上記指定期間内に補正をする機会が与えられる。これは、出願人に対し意見書の提出及び補正による拒絶理由の解消の機会を与えて、出願人の防御の機会を保障するとともに、その意見書を基にして審査官が再審査をする機会とする趣旨であると解される。そして、同法0条本文は、同法159条2項により拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由(新拒絶理由)を発見した場合に準用されており、上記の出願人の防御の機会の保障という趣旨は、拒絶査定不服審判において新拒絶理由が発見された場合にも及ぶものである。また、同法3条1項(同法159条1項により読み替えて準用される場合を含む)により特許請求の範囲の記載についてした補正が却下された場合には、既に拒絶理由が通知された補正前の特許請求の範囲の記載(以下『補正前クレーム』という)により拒絶理由の有無が判断されることになるから、拒絶査定又は拒絶査定不服審判請求不成立審決に至ることが少なくないが、審査段階において同法7条の2第1項3号所定の補正(以下『3号補正』という)がされた場合には、従前の拒絶理由通知に示されていなかった新たな刊行物(以下『新規引用文献』という)に基づく独立特許要件違反を理由として、その3号補正が却下され、補正前クレームに基づいて拒絶査定がされたとしても、拒絶査定不服審判請求等において補正後の特許請求の範囲の記載(以下『補正後クレーム』という)に基づく独立特許要件違反の判断の当否や補正前クレームに基づく拒絶理由の判断の当否を争い得ることに加え、審判請求時補正により、新規引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会がある。これに対し、新規引用文献に基づく独立特許要件違反を理由として、審判請求時補正が却下され、補正前クレームに基づいて拒絶査定不服審判請求不成立審決がされてしまうと、審決取消訴訟において補正後クレームに基づく独立特許要件違反の判断の当否や補正前クレームに基づく拒絶理由の判断の当否を争うことはできるものの、審査段階における3号補正の場合とは異なり、新規引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会が残されていない点において、出願人にはより過酷であるということができる。さらに、同法3条1項(同法159条1項により読み替えて準用される場合を含む)において、3号補正及び審判時請求補正が独立特許要件に違反しているときはその補正を却下しなければならない旨が定められ、同法0条ただし書(同法159条2項により読み替えて準用される場合を含む)において、同法3条1項(同法159条1項により読み替えて準用される場合を含む)により3号補正及び審判請求時補正を却下する決定をするときは拒絶理由通知を要しない旨が定められたのは、平成5年改正によるものであるが、同改正においては、3号補正及び審判請求時補正については、既に行われた審査結果を有効に活用することができる範囲とするとの観点から、その目的を特定のものに限定することが定められ(目的要件の創設、その1つとして限定的減縮が定められた・・・・。このような改正経緯に照らすと、平成5年改正は、審判請求時補正・・・・においては、審査段階における先行技術調査の結果を利用することを想定していたことが明らかであり、審判請求時補正・・・・を却下する際に、独立特許要件の判断において、審査段階において提示されていなかった新規引用文献を主たる引用例とするなど、審査段階において全く想定されていなかった判断をすることは、平成5年改正の本来の趣旨に沿わないものということができ、そのような場合に、同法159条2項により読み替えて準用される同法0条ただし書をそのまま適用することについては、慎重な検討を要するものということができる。加えて、平成5年改正により、同法0条ただし書(同法159条2項により読み替えて準用される場合を含む)において、同法3条1項(同法159条1項により読み替えて準用される場合を含む)により3号補正及び審判請求時補正を却下する決定をするときは拒絶理由通知を要しない旨が定められたのは、再度拒絶理由が通知され、審理が繰り返し行われることを回避する点にあると解される。もとより、審理が繰り返し行われることを回避することにより、審査・審判全体の効率性を図ることは、重要ではあるが、新規引用文献に基づく独立特許要件違反を理由として審判請求時補正を却下せずに、この新規引用文献に基づく拒絶理由を通知したとしても、限定的減縮である審判請求時補正による補正後クレームについて、特許法7条の2第3項〜6項による制限の範囲内で補正することができるにすぎないから、審理の対象が大きく変更されることは考え難く、そのような審理の繰返しを避けるべき強い理由があるということはできない。他方、前記のとおり、新規引用文献に基づく独立特許要件違反を理由として、審判請求時補正が却下されて、補正前クレームに基づいて拒絶査定不服審判請求不成立審決がされた場合には、新規引用文献に基づく独立特許要件違反を理由として、審査段階における3号補正が却下されて、補正前クレームに基づいて拒絶査定がされた場合とは異なり、新規引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正の機会が残されていない点において、出願人にはより過酷であり、この補正の機会の有無により、最終的に特許査定を得られるか否かが左右されるという重大な結果を招く可能性もある」、「以上の諸点を考慮すると、特許法159条2項により読み替えて準用される同法0条ただし書に当たる場合であっても、特許出願に対する審査・審判手続の具体的経過に照らし、出願人の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるようなときには、同法159条2項により準用される同法0条本文に基づき拒絶理由通知をしなければならず、しないことが違法になる場合もあり得るというべきである」、「本件においては、・・・・本件拒絶査定の理由は、本件先願を理由とする拡大先願(特許法9条の2)であるのに対し、審決が本件補正を却下した理由は、刊行物1を理由とする新規性欠如(同法9条1項3号)及び進歩性欠如(同条2項)であって、適用法条も、引用文献も異なるものである。刊行物1は、本件補正を受けた前置報告書において初めて原告に示されたものであるが、刊行物1に基づく拒絶理由通知はされていないことから、原告には、刊行物1に基づく拒絶理由を回避するための補正をする機会はなかった。なお、・・・・刊行物1に基づく拒絶理由通知がなくても原告の防御の機会が実質的に保障されていたと認められる特段の事情も見当たらない。以上の本願に対する審査・審判手続の具体的経過に照らすと、刊行物1に基づく拒絶理由通知がされていない審決時において、原告の防御の機会が実質的に保障されていないと認められるから、審判合議体は、同法159条2項により準用される同法0条本文に基づき、新拒絶理由に当たる刊行物1に基づく拒絶理由を通知すべきであったということができる。それにもかかわらず、上記拒絶理由通知をすることなく本件補正を却下した審決には、同法159条2項により準用される同法0条本文所定の手続を怠った違法があり、この違法は審決の結論に影響を及ぼすものと認められる」と述べている。

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