知財高裁(平成1年3日)控訴人は、法184条の4第4項の『正当な理由』の有無は、特許庁が策定したガイドライン・・・・に従って出願人等が講じていた措置が『相応の措置』に当たるかどうかによって判断すべきであり、期間徒過の原因となった事象が補助者による人為的ミスに起因する場合『相応の措置』に当たるかどうかは、監督者が個々具体的な人為的ミスを防ぐための措置を採っていたかどうかではなく、当該補助者を使用する出願人等が採った措置がガイドライン・・・・に規定する3要件を満たしているか否かによって判断するのが相当であるとした上で、@本件事務所(現地事務所)の案件・期限管理システムは、ISO認証を取得し、規格に従い適切に運用されていたこと、A本件事務所では、国際規格ISO9001に従い、PCT国内移行の補助者用の処理マニュアル・・・・を保持し、人為的入力ミスによる期間徒過が生じるのを防止するために、定例ミーティングを開催していたこと、B補助者であるAは、十分な経歴を有し、その業務は極めて標準的な業務であり、Aの誤入力は、知識や経験不足によるものと考えられず、単なる錯誤であることによれば、本件においては、ガイドラインの上記3要件を満たし『相応の措置』が採られていたというべきであるから、本件期間徒過については『正当な理由』があり、これを否定した原判決の判断は誤りである旨主張する。しかしながら、ガイドライン・・・・は、『期間徒過後の救済規定に係るガイドラインの利用に当たって』の項・・・・に『ガイドラインの目的』として『このガイドラインは、救済規定に関し、救済要件の内容、救済に係る判断の指針及び救済規定の適用を受けるために必要な手続を例示することにより、救済が認められるか否かについて出願人等の予測可能性を確保することを目的としています。』、『ガイドラインの留意事項』として『このガイドラインは、救済規定に関する基本的な考え方を示すものです。考え方をわかり易くするため、所々に具体的な事例を記載しておりますが、実際には、期間徒過の原因など諸々の事情を総合して判断されることに御留意ください』と記載があるように、特許庁の『救済規定』に関する判断の指針、運用手続等を示したものであって、政省令のような法規範性を有するものではない。そして、上記@の点については、・・・・本件事務所が本件ISO規格の認証を受け、同規格に従って本件システムを適切に管理運用していたことは、業務の管理運営システムが一定の水準にあることを示すにとどまり、同規格の認証を受けたシステムを利用していたことから直ちに本件出願人が本件誤入力を回避するための相当の注意を尽くしていたということはできない。次に、上記Aの点については、・・・・補助者のAの休暇中の平成7年7月7日に行われた定例ミーティングにおいては、0か月期限国の代理人に国内移行指示レターが送信され受領済みであることが確認されたのみであり、補助者が手入力した記載について他の資料と照合してクロスチェックするなどしてその正確性を確認する作業は行われていないから、定例ミーティングの開催をもって、本件出願人が本件誤入力を回避するための相当の注意を尽くしていたということはできない。さらに、上記Bの点については、本件誤入力がAの錯誤によるものであるとしても、Aが長期休暇を取得すること自体はあらかじめ予定されており、休暇に入る前に、その休暇期間、担当業務の進捗状況、休暇の間に他の者が代替して行うべき業務等を把握した上で、当該補助者又は他の所員に必要な指示を与えることによって本件誤入力を回避することが可能であったにもかかわらず・・・・、このような措置が講じられていないから、本件出願人が本件誤入力の回避のため相当な注意を尽くしていたということはできない。ガイドラインとの関係でみても、このことは、ガイドライン・・・・に規定する『b  補助者に対し的確な指導及び指示を行っていること』及び『c  補助者に対し十分な管理・監督を行っていること』との要件を満たしていないことを示すものといえる。したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない」と述べている。

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