知財高裁(平成31年3月18日)“穀物粒由来のグルテンタンパク質の解毒方法事件”は、「控訴人は、本件現地事務所は、本件国内事務所に宛てて、本件期間が満了する約1か月前に出願審査請求を指示する電子メールを送信し、本件現地事務所(及び控訴人)として出願審査請求について必要な措置を講じていたにもかかわらず、控訴人及び本件現地事務所には到底予測し得ない本件国内事務所における特別の事情により本件期間の徒過が生じたのであるから、控訴人には、特許法48条の3第5項所定の『正当な理由』があると主張する」、「そこで検討するに、控訴人は、本件現地事務所と本件国内事務所との間では、従来から、特許の出願審査請求手続に関し、本件現地事務所から本件国内事務所に宛てて出願審査の請求手続を指示するメールを送信した後、当該メールの到達を確認する手順を踏まない運用をしていたところ、かかる運用でも特段の問題は生じていなかったと主張する。しかし、電子メールは、相手方への到達が保証されておらず、かつ、送信者が他の手段によることなく相手方への到達を確認することが困難な連絡手段であることは周知の事実である。そして、控訴人の主張によれば、出願審査請求の要否の連絡は、特許権の得喪に関わる極めて重大な手続に係るものであるにもかかわらず、本件現地事務所と本件国内事務所との間では、本件現地事務所から本件国内事務所に出願審査の請求手続を指示するメールを送信した後、当該メールの到達を確認する手順を踏まない運用をしていたというのである。そうすると、結局のところ、本件国内事務所においても本件現地事務所においても、上記の電子メールの特性が考慮された、期間徒過に至ることを防止するための措置は、何ら講じられていなかったというべきである。したがって、本件国内事務所においても本件現地事務所においても、期間徒過に至らないよう相当な注意を尽くしていたと認めることはできない」、「なお、控訴人が指摘するとおり、仮に本件国内事務所のサーバーがランサムウェアに感染したとの事象が生じていたのであれば、本件現地事務所は、通常、そのような事象が生じていることを知り得ないであろうことは事実である。しかし、本件国内事務所は、本件現地事務所からの出願審査請求指示を電子メールで行うとの運用が採用されていることを踏まえ、本件特許出願の出願審査請求の指示に係る電子メールが受信できていないとか、又はランサムウェア感染それ自体や復旧作業の過程で消失したなどの可能性を考慮して、控訴人や本件現地事務所に上記事象の発生を報告するとともに、出願審査請求を指示する電子メールを受信できなかったなどの可能性がある期間内に本件現地事務所が当該電子メールを送信したか否かを確認する等の対応を行うべきであったといえるところ、このような配慮を欠いたことは、相当な注意を欠いたものというべきであるし、このような控訴人の代理人である本件国内事務所の事情は、控訴人本人が相当な注意を欠いたかどうかを判断するにあたっても考慮すべきものである。また、控訴人の主張によっても、本件国内事務所において、ランサムウェア感染によりメールの送受信ができなかった期間は1週間ほどにすぎず、その後、出願審査請求期間満了日まで1か月弱の猶予があったというのである。そうすると、本件現地事務所において、出願審査請求手続の重要性と電子メールの特性を考慮して、例えば、出願審査請求を指示するメールについては、本件国内事務所からこれを受信したことの連絡や、実際に出願審査請求をしたことの報告を求める運用を採用するなどの何かしらの措置を講じていれば、本件国内事務所のサーバーがランサムウェアに感染したとの事象が生じていたとしても、本件特許出願の審査請求につき、期間徒過に至ることを容易に回避できたというべきである。したがって、仮に、本件国内事務所のサーバーがランサムウェアに感染したという事情があったとしても、控訴人に正当な理由が認められないことには変わりがない」と述べている。 |