知財高裁(平成31年3月19日)“監視のための装置事件”は、「特許法121条2項の『その責めに帰することができない理由』とは、天災地変のような客観的な理由に基づいて拒絶査定不服審判を請求することができない場合のほか、通常の注意力を有する当事者において、通常期待される注意を尽くしてもなお避けることができないと認められる事由により、同条1項の定める法定期間内に拒絶査定不服審判を請求できなかった場合をいうものと解するのが相当である。特許法121条2項の趣旨は、手続の迅速な解決という立場からは、法定期間内に審判請求のない場合には全て当該手続が終了するものと考えるべきところ、当事者側の事情によっては、当該手続をそのまま終了させることが著しく不当な場合もあるので、特定の場合に限りその救済を認めたというものであることからすると、上記の『その責めに帰することができない理由』を、代理人が通常期待される活動をしていれば避けることができる過誤に基づく場合を含むように広く解釈することはできず、上記のとおり限定的に解釈すべきである」、「特許の出願人が在外者である場合、拒絶査定不服審判請求や分割出願を行うためには、特許法施行令1条1号に定める場合を除いて、特許管理人たる代理人を選任する必要があるが(特許法8条1項)、その場合であっても、同在外者は、誰を代理人に選任するのかについて、自己の経営上の判断に基づきこれを自由に選択することができる。そうすると、出願人から委任を受けた代理人に『その責めに帰することができない理由』があるといえない場合には、出願人本人に何ら落ち度がない場合であっても、特許法121条2項所定の『その責めに帰することができない理由』には当たらないと解すべきである」、「本件においては、・・・・D弁理士は、本願からの分割出願について、特許法44条1項3号の適用があり、拒絶査定不服審判請求をする必要はないものと誤信し(サイト注:本願は平成18年の法改正によって新設された3号が適用される日より前にされた特許出願であった)、拒絶査定不服審判請求についての法定期間を徒過してしまったものである。弁理士法3条によると、弁理士には、業務に関する法令に精通して、その業務を行う義務があるところ、通常の注意力を有する弁理士が、通常期待される法令調査を行えば、本件拒絶査定後、本願から適法に分割出願を行うためには、拒絶査定不服審判請求を分割出願と同時にする必要があると認識することは十分に可能であったと認められる。したがって、D弁理士が上記のように誤信をしたことは、弁理士として通常期待される法令調査を怠った結果であるというほかない。D弁理士以外の他の本件代理人らについても、いずれも原告本人から委任を受けた弁理士である以上、適宜、必要な処置を講じて、本件のような過誤の発生を防止すべき義務があったといえ、D弁理士同様、弁理士として通常期待される注意を尽くしていなかったものというべきである。以上のとおり、本件代理人らが通常期待される注意を尽くしていたとはいえない以上、本件において、特許法121条2項にいう『その責めに帰することができない理由』があったとすることはできない」と述べている。 |