知財高裁(平成31年3月20日)“二酸化炭素経皮・経粘膜吸収用組成物事件”は、「甲1−1発明は、炭酸ガスによる血行促進作用を利用する化粧料であって、クエン酸水溶液の第1剤と、アルギン酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムを常温固型のポリエチレングリコールで被覆した粉末の第2剤からなる2剤型であるため、経日安定性に優れるとともに、第2剤の粉末は、アルギン酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムをポリエチレングリコールで被覆することによって溶解速度を調節し、泡のもち(持続性)と反応速度を適切なものとした発明であることが理解できる。しかるところ、甲1の比較例4〜10(いずれも1剤式)では、クエン酸と炭酸水素ナトリウムを用時、水に溶解する1剤式発泡性エッセンスとすると、経日安定性に著しく劣ることが示されている。そうすると、たとえアルギン酸ナトリウムが水に溶けにくいことや、化粧料一般については、ジェルを第1剤とし、粉末を第2剤とする用時混合型のキットが周知であるとしても、酸と炭酸塩が水と接触して反応することにより二酸化炭素を発生させる組成物である甲1−1発明において、第1剤に含まれるクエン酸を、炭酸水素ナトリウムを含む第2剤に移動させて複合粉末剤とすることは、クエン酸と炭酸水素ナトリウムが2剤に分かれていることによる甲1−1発明のメリット(経日安定性)を損なうものであって、当業者がそのような変更を行うことについては阻害要因があるものと認められる。そして、かかる阻害要因が克服可能であることについて原告から具体的かつ有効な論証がなされているとは認められない。また、甲1−1発明においては、アルギン酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムを常温固型のポリエチレングリコールで被覆することによって、用時混合する際に、炭酸ガスの泡が徐々に発生するとともに、アルギン酸ナトリウムの粘性によって安定な泡を生成し、炭酸ガスの保留性が高まるという有利な効果が発生しているものと認められるところ、当業者がそのような有利な効果が得られる構成をあえて放棄して、第2剤のアルギン酸ナトリウムを第1剤に移動して炭酸水素ナトリウムとは別の含水粘性組成物とする構成を採用する積極的な動機付けがあるとも考え難い。そうすると、アルギン酸ナトリウムを事前に水に添加(溶解)して利用することが周知慣用技術であったとしても、甲1−1発明にかかる周知慣用技術を適用して、同発明を相違点1に係る構成を備えるものとすることが当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない」と述べている。 |