東京地裁(令和元年10月23日)“トリアジン化合物事件”は、「原告は、本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していたファイザー社の担当者において、本件訂正時特許証の『登録日』欄の日付である平成25年9月30日が本件設定時特許証の『登録日』欄の日付である平成24年3月16日と異なっていたことから、特許料の納付期限の起算日となる本件特許権の設定登録日が本件訂正時特許証のとおり訂正されたものと誤解し、本件期間徒過が生じたとし、@特許料等に関する法107条ないし112条の3の各規定によって、訂正をすべき旨の審決が確定しても設定登録日が変わらないことや特許証に複数の種類があることを認識することはできないこと、A本件設定時特許証及び本件訂正時特許証には『登録日』としか記載されていないため、どちらが本件特許権の設定登録日であるか不明確であり、米国や欧州の実務と比べても、我が国の特許証の記載は紛らわしいものであること、B特許証の大半は設定登録時に発行されるものであるから、ファイザー社において、訂正すべき旨の審決が確定したときに発行される特許証が存在することを当然に把握しておくべきであったとはいえないことなどに照らし、原告には、本件期間徒過について法112条の2第1項所定の『正当な理由』が認められる旨主張する」、「本件特許権に係る特許料の納付期限を管理していた担当者は、原告の主張が本件回復理由書及び本件審査請求書における主張・・・・から変遷し、判然としないが、ファイザー社の担当者において、前記のような誤解をしていたと認められたとしても、以下のとおり、本件期間徒過について、原告が原特許権者として、相当な注意を尽くしていたにもかかわらず、客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったときに当たると認めることはできない」、「すなわち、原告は、日本の特許権を保有していたのであるから、特許料の納付等の管理を行うに当たり、一般に求められる相当な注意として、日本の特許法及びその他の関係法令を理解しておくべきであるといえるところ、@特許料の納付期限については、法107条、108条において、特許権の設定登録日から起算されることが規定されており、訂正をすべき旨の審決が確定してその登録がされた場合に特許権の設定登録日が変更される旨の規定は存在しないから、本件特許権について、本件審決が確定してその登録がされたからといって、特許権の設定登録日が変更されないことは条文上明らかであること、A特許証の交付についても、法28条1項において、特許権の設定の登録があったときに交付されることのほかに、訂正をすべき旨の審決が確定した場合にその登録があったときなどにも交付されることが規定されていることなどからすると、担当者において、これらの規定を理解していれば、本件訂正時特許証に『登録日』として『平成25年9月30日』と記載されていても、本件訂正時特許証に『この発明は、訂正をすべき旨の審決が確定し、特許原簿に登録されたことを証する。』と記載されていることをも踏まえれば、上記の『登録日』が本件審決の確定等に係る登録日を記載したものであり、特許料の納付期限の起算日となる特許権の設定登録日が変更されたものではないと理解することは可能であったと認められる」、「本件訂正時特許証及び本件設定時特許証の『登録日』欄記載の年月日には1年半ものずれがあり、特許権の設定登録日が訂正されたと考えることに疑念を生じさせるものであったといえるところ、特許権の設定登録日は、ウェブサイトに公開されている特許情報や特許登録原簿等によっても確認することができるから、担当者において、上記疑念を抱いて、相当な注意を尽くしてそのような確認をしていれば、本件特許権の設定登録日が変更されていないことを認識することは容易であったというべきである」、「本件全証拠によっても、担当者において、本件訂正時特許証の『登録日』欄の記載を上記・・・・のように理解すること又は上記・・・・のような確認をすることが困難であったことをうかがわせる事情は認められない」、「したがって、本件期間徒過について法112条の2第1項所定の『正当な理由』は認められない」と述べている。 |