東京地裁(令和元年10月24日)“選挙得票率予測装置事件”は、「主位的請求の趣旨第3項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第4項に係る訴えは、原告が本件特許出願の出願公開請求をしたことに対して、出願公開がされないことから、その義務付けを求める申請不作為型の義務付けの訴え(行訴法3条6項2号、37条の3第1項1号)であると解されるところ、この訴えが適法であるためには、特許出願の出願公開が『処分又は裁決』に該当する必要がある。特許出願が出願公開されると、公開された特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明(拡大先願)と同一の発明について、第三者がした後の特許出願(後願)は拒絶され(特許法29条の2)、出願公開された発明の特許出願人には、特許権の設定登録前に業としてその発明を実施した者に対する補償金請求権が付与される(同法65条1項)ほか、出願公開後にその特許出願に係る発明を第三者が実施している場合において必要があるときは、審査官にその特許出願を他の特許出願に優先して審査させることができる(同法48条の6)といった法的効果が生じる。しかし、拡大先願は、出願公開を条件として公知を擬制し、同一の後願一般を排除するものであって、もとよりその効果が特定の者を対象として生ずるものではない。また、補償金請求権や優先審査についても、出願公開に加えてそれぞれ他の要件を満たさなければ法的効果は生じず、その効果も出願公開後に特許出願に係る発明と同一の発明を業として実施する不特定の第三者一般に及ぶものであって、特定の者を対象として生ずるものではない。そうすると、上記法的効果はいずれも、出願公開を条件として特許法が特別に規定した一般的な効果であるというべきであり、出願公開は、それ自体によって直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではないから、『処分』には該当しないというほかない。また、『裁決』とは行政庁の処分その他公権力の行使に関し相手方その他の利害関係人が提起した審査請求その他の不服申立てに対し、行政庁が義務として審理判定する行為であるから、特許出願の出願公開が『裁決』に該当しないことは明らかである。したがって、主位的請求の趣旨第3項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第4項に係る訴えはいずれも不適法である」と述べている。 |