知財高裁(令和元年)“PCSK9に対する抗原結合タンパク質事件特許請求の範囲の記載及び本件各明細書の記載事項を総合すると、本件各発明の『抗体と競合する』とは、競合アッセイによって測定された抗原結合タンパク質間の競合をいい、参照抗体がPCSK9に結合するエピトープと同一又は重複するエピトープに結合することや、参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となる隣接エピトープに結合することを意味するものと認められる。なお、免疫学辞典第2版には『競合阻止試験』について『競合阻害試験ともいう。たとえば、あるものが抗原分子と競合して抗体分子の抗原結合部位を取合う型の阻害や、あるものが抗体分子と競合して抗原分子の抗原決定基を取合う型の阻害である』との記載があり、生化学辞典第4版には『競合阻害』について『拮抗阻害、競争阻害ともいう。酵素は種々の化合物によってその触媒活性が可逆的に阻害される場合が多い。酵素活性の阻害にはいろいろな形式があるが、阻害剤分子が基質分子と競合して基質結合部位を取合う型の場合が競合阻害である』との記載があり『競合』は、結合部位を取り合うという意味で用いられている。しかし、前記のとおり、本件各明細書においては『競合』は、競合アッセイによって測定された抗原結合タンパク質間の競合を意味し、同じ結合部位を取り合う場合に限らず、参照抗体とPCSK9との結合の立体的障害となる隣接エピトープに結合することを含む意味で用いられていることが明らかである」と述べている。

特許法の世界|判例集