知財高裁(令和元年10月30日)“PCSK9に対する抗原結合タンパク質事件”は、「控訴人は、被告製品及び被告モノクローナル抗体の生産・譲渡等を差し止めることは、現在及び将来被告製品の投与を受ける患者に重大な健康上の不利益や将来の治療上の不安をもたらすから、被控訴人による差止請求は、権利濫用に当たり、許されない旨主張し、B作成の意見書(乙33)を提出する。しかしながら、乙33は、被告製品の譲渡等が差し止められることにより、患者にとっての選択肢が減り、被告製品を使用している患者の困惑が予想されるなどの問題点を指摘するものの、被告製品に代えて被控訴人が製造販売している製品を使用することにより、具体的に患者の健康上の不利益等が生じることまで指摘するものではないから、被告製品の使用を差し止めることにより、公共の利益が損なわれるとの具体的な事実が立証されているとはいえない。そして、医薬品の分野においては、公共の利益の観点から差止請求権を制限すべき場合もあり得ると解されるものの、具体的な事実を立証することなく、単に患者にとって選択可能なオプションが存在する方が望ましいとの理由により、侵害品の生産、譲渡等の差止請求が許されないと解することはできない。よって、控訴人の主張は採用できない」と述べている。 |