知財高裁(令和元年10月30日)“PCSK9に対する抗原結合タンパク質事件”は、「控訴人は、本件各発明は、抗体の構造を特定することなく、機能的にのみ定義されており、極めて広範な抗体を含むところ、当業者が、実施例抗体以外の、構造が特定されていない本件各発明の範囲の全体に含まれる抗体を取得するには、膨大な時間と労力を要し、過度の試行錯誤を要するのであるから、本件各発明は実施可能要件を満たさない旨主張する」、「本件各発明は、PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、参照抗体と競合する、単離されたモノクローナル抗体についての技術的思想であり、機能的にのみ定義されているとはいえない。そして、発明の詳細な説明の記載に、PCSK9とLDLRタンパク質の結合を中和することができ、PCSK9との結合に関して、参照抗体1又は2と競合する、単離されたモノクローナル抗体の技術的思想を具体化した抗体を作ることができる程度の記載があれば、当業者は、その実施をすることが可能というべきであり、特許発明の技術的範囲に属し得るあらゆるアミノ酸配列の抗体を全て取得することができることまで記載されている必要はない」、「当業者は、本件各明細書の記載に従って、本件各明細書に記載された参照抗体と競合する中和抗体以外にも、本件各特許の特許請求の範囲(請求項1)に含まれる参照抗体と競合する中和抗体を得ることができるのであるから、本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体を得るために、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要するものとはいえない。よって、控訴人の主張は採用できない」と述べている。 |