東京地裁(令和元年)“スクラブ石けんの製造方法事件被告らは、原告らは平成1年4月時点で、本件各特許権の侵害を認識していたから、損害賠償請求権の一部が時効消滅していると主張する。しかし、民法724条が規定する損害及び加害者を知った時とは、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時を意味するものと解するのが相当であるところ(最高裁判所昭和8年1月6日・・・判決・・・参照、特許権侵害が認められる本件特許権1は、スクラブ石けんの製造方法の発明に係るものであり、被告らが製造、販売している被告製品を市場で入手可能であるとしても、その分析によりいかなる製造方法により被告製品を製造しているかを確認することは困難である。これに対し、被告らは、本件警告書を送付した時点において、原告らは被告方法が本件発明1の技術的範囲に属し、損害が発生していることを認識していたと主張するところ、確かに、原告長寿乃里は、・・・被告日本生化学及び被告ブレーンコスモスに対し本件警告書(サイト注:平成1年付け)を送付しているので、その時点において、被告製品が本件各特許権を侵害する可能性があることを認識していたものと認められる。しかし、同警告書には、被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するものと思料されると記載されているにとどまり、この時点において原告らが被告製品の具体的な製造方法を把握していたと認めるに足りる証拠はない。本件においては、平成7年9月9日に被告日本生化学の千葉工場において証拠保全による検証が行われ、これにより、原告らは被告方法に係る製造工程表等を入手し・・・・、原告らは被告方法が本件発明1の技術的範囲に属することを認識したものと認められる。そうすると、消滅時効の起算点は平成7年9月9日であると認めるのが相当であり、同日から本訴が提起された平成8年4月3日(訴状作成日は同月1日)までに3年を経過していないから、本件特許権1の侵害に係る損害賠償請求権は、時効消滅していないというべきである」と述べている。

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