知財高裁(令和元年)“セレコキシブ組成物事件所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明について、特許請求の範囲の記載が・・・・サポート要件・・・・に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から、当該発明に含まれる数値範囲の全体にわたり当該発明の課題を解決することができると認識できるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。これを本件発明1についてみると、本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば、本件発明1は『一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させたg乃至100gの量の微粒子セレコキシブ』を含む『固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物』に関する発明であって『粒子の最大長において、セレコキシブ粒子の200μ未満である粒子サイズの分布を有する』ことを特徴とするものであるから、所定の数値範囲を発明特定事項に含む発明であるといえる。そして、・・・・本件明細書の開示事項によれば、本件発明1は、未調合のセレコキシブに対して生物学的利用能が改善された固体の経口運搬可能なセレコキシブ粒子を含む製薬組成物を提供することを課題とするものであると認められる」、「本件優先日当時、粉砕によって薬物の粒子径を小さくし、比表面積(有効表面積)を増大させることにより、薬物の溶出が改善されるが、他方で、難溶性薬物については、溶媒による濡れ性が劣る場合には、粒子径を小さくすると凝集が起こりやすくなり、有効表面積が小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあり、また、粒子を微小化することにより粉体の流動性が悪くなり凝集が起こりやすくなることがあることは周知又は技術常識であったことに照らすと、難溶性薬物であるセレコキシブについて『セレコキシブの粒子サイズが約200μ以下』の構成とすることにより、セレコキシブの生物学的利用能が改善されることを直ちに理解することはできない。また、本件明細書の記載を全体としてみても、粒子の最大長におけるセレコキシブ粒子の『』の値を用いて粒子サイズの分布を規定することの技術的意義や『』の値と生物学的利用能との関係について具体的に説明した記載はない。しかるところ』は、粒子の累積個数が0%に達したときの粒子径の値をいうものであり、本件発明1の『200μ未満である』とは、200μ以上の粒子の割合が0%を超えないように限定することを意味するものであるが、難溶性薬物の原薬の粒子径分布は、化合物によって様々な形態を採ること・・・・に照らすと、200μ以上の粒子の割合を制限しさえすれば、0%の粒子の粒度分布がどのようなものであっても、生物学的利用能が改善されるとものと理解することはできない。以上によれば、・・・・『セレコキシブの粒子サイズが約200μ以下』とした場合には、その数値範囲全体にわたり、セレコキシブの生物学的利用能が改善されると認識することはできない」、「この点に関し被告は、@本件発明1の課題解決のメカニズムは、セレコキシブの粒子の最大長における200μ未満とされることにより、元来凝集しやすい性質のセレコキシブの凝集性が減少し、その結果セレコキシブ粒子の有効表面積が増大することにより溶解速度が速くなり、セレコキシブの生物学的利用能が改善するものである、Aピンミルを利用した場合には、セレコキシブは長い針状から微小化した均一な粒子になるのに対して、エアージェットミルを利用した場合には長い針状の結晶が残存するためピンミルを利用して粉砕した場合と比較して、液体エネルギーミルで粉砕した場合は凝集力が改善されにくいこと・・・・から、単にセレコキシブの粒子を微細化して平均粒子径を小さくすればよいというのではなく、微細化した粒子中に残存する長い針状の結晶の割合こそが重要であり、その割合が限定されなければならないということを見出し、本件発明1では、微細化した粒子中に残存する粒子の最大長のを基準として用いることとした・・・・旨主張する。しかしながら、・・・・本件明細書・・・・には、粒子の最大長におけるセレコキシブ粒子の『』の値を用いて粒子サイズの分布を規定することの技術的意義や『』の値と生物学的利用能との関係について説明した記載はない。また、・・・・本件発明1の『微粒子セレコキシブ』が『ピンミル』(『ピンミリング)を利用して粉砕されたものに限定されるものではないから『ピンミル』を利用することを前提として、セレコキシブ粒子の最大長における200μ未満である場合に生物学的利用能が改善されるメカニズムを把握することはできない」、「本件明細書には、セレコキシブ粒子のの粒子サイズと生物学的利用能に関する実験結果の開示はない」、「本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の技術常識から、当業者が、本件発明1に含まれる『粒子の最大長において、セレコキシブ粒子の200μ未満』の数値範囲の全体にわたり本件発明1の課題を解決できると認識できるものと認められないから、本件発明1は、サポート要件に適合するものと認めることはできない」と述べている。

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